最弱Sランク冒険者は引退したい~仲間が強すぎるせいでなぜか僕が陰の実力者だと勘違いされているんだが?

月ノみんと

第0話 プロローグ


 とある日の冒険終わり、ホテルにて。

 仲間のうちの一人、武闘派のシュバール・ロワンが僕に向かって、声を荒げて言った。


「おい! ノエル・グランローグ。荷物持ちしかできない無能め! 今日でお前は追放だ! もうこのパーティーにお前は必要ねえ。Sランクに上がるんだ。お前のようなお荷物を置いてはおけねえ、みんなも賛成だよなぁ……!?」


 その瞬間、僕は絶望――どころか、歓喜の表情を浮かべていた。

 普通だったら、パーティーから追放されるのなんて、絶対に避けたい事態だろう。

 だけど、僕はもうずいぶんと長い間、このパーティーから抜け出したかったのだ。

 いっそ追放してくれとまで思っていたのだから、その願いが叶ったわけだ。


「う、うん……そうだね。うん、そうだ。僕も、シュバールの言うことは正しいと思うよ。僕はこのパーティーにふさわしくない。だから、抜けるね……。みんなと離れるのは悲しいけど、仕方ないよね! うん、僕じゃSランクパーティーについていけないし。じゃあ、今までみんなありがとう……!」


 僕はそう言って、喜んでその場から立ち去ろうとする――。

 しかし――。

 パーティーメンバーの他のアホたちが、それを許してくれない。


「馬鹿野郎! ノエルになんてことを言うんだ! てめぇ!」

「そうよそうよ!」


 大盾持ちのロランが反論を加え、他のメンバーもそれに同調する。

 そう、なにを勘違いしているのかは知らないけど、他のパーティーメンバーはみんな、僕のことが大好きなのだ……なぜか。

 僕なんて、まったく戦闘では役に立たないただの荷物持ちなのに。

 普通なら、真っ先に追放されてしかるべきだろう。

 

 けど、僕を追放しようとするシュバールに対し、ロランたちは罵声を浴びせた。

 それくらい、みんなは僕を過大評価しているのだ。

 みんな、なぜか僕がこのパーティーで一番強いと勘違いしている。

 断言するが、まったくもってそんなのは勘違いだ。

 だって、このパーティーは僕以外みんな、規格外すぎる強さを持っている、化物ばかりだ。

 自分たちが強すぎるせいで、逆に僕の弱さがわからないんじゃないのか?


 何度か言い争ったあと、ロランは逆にシュバールの首根っこを掴んで、こう言った。


「出て行くのはてめえだ! てめえは前からよぉ、ノエルに対する態度が気に食わなかったんだ。そこまでいうなら、てめえが出て行くんだな。俺たち【霧雨の森羅】は、ノエルがいてこそなんだわ。わかったか?」


 なぜだか、僕に追放を言い渡したはずのシュバールが、今度は追放を言い渡されてしまった。

 あれぇ……?

 なんでぇ……?

 最近、パーティーから無能が追放されるという噂をよく耳にする。

 けど、まさか追放を言い出した人間が追放されるなんてのは、きいたことがないぞ……。


 それにシュバールは僕と違って、戦闘能力も随一だし、このパーティーにはかかせない人間のはずだ。

 いくらシュバールが僕を嫌っていて、ロランたちが僕のことを大好きだからって、そんな一時の感情で追い出していい人材ではない。

 しかし、ロランの言葉に、エリーとマリア、女性陣たちも賛同して、シュバールに罵声を浴びせた。


「そうよそうよ! あんたなんか、いてもいなくても同じよ」

「そうです! ノエルさんを侮辱する人はいりません!」


 さすがにこうも女性陣から強烈なカウンターを喰らって、シュバールも顔を真っ赤にして、酒瓶を地面に投げつけた。


「っち、やってらんねー! お前ら全員どうかしてるぜ! せいぜいそのお荷物とよろしくやるんだな。俺はもっとまともなパーティーをさがすぜ」


 シュバールは捨て台詞を吐いて、部屋から出ていく。


「なんなのあいつ」


 と、魔法使いのエリーは言う。

 けど、僕からしたらなんなのは君たちのほうなんだけど……?

 シュバールがいなくなって、僕らだけでやっていけるのだろうか……。

 まさか逆にシュバールが追放されてしまうなんて……。

 このパーティーのみんなは、完全に判断を誤っている。

 

「ノエルさん。私たちは、ノエルさんがいないとなにもできないんですから。ノエルさんはこのパーティーの要。かけがえのない存在なんですから。どこにもいかないでくださいね?」


 大賢者のマリアがそう言うが、そんなのは事実無根だ。

 僕みたいな無能がいなくても、このパーティーはうまくやっていけるだろうに……。

 というか、完全に僕がお荷物なわけで、シュバールはなにも間違っていなかった。

 まったく……せっかく追放されるチャンスだと思ったんだけどな……。

 くそ、また引退が遠のいてしまった。


 ていうか、そもそもどうしてこんなおかしなことになっているんだっけ……?

 僕は自分の記憶をたどる。


 そうだ、思い出した。

 すべてはあそこから始まったんだ。

 たった一つの勘違いが、次の勘違いを産んで……そしてどんどん大変な事態に発展する……。

 僕たちの冒険は、いつもそうだった。


 



 話は数時間前にさかのぼる――。



 

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