第26話 クエスト(3)


 護衛のクエストが終わって、元の街に帰ってきた僕たち。

 なんとその翌日、エリーとマリアが熱を出した。

 原因はなんだろうか、旅の疲れとかかな。

 とにかく、二人はホテルの部屋で寝込んでいる。


 風邪なんかの病気は、マリアの回復魔法でもどうにもならない。

 多少は回復魔法でよくなったりするみたいだけど、しばらくは安静にしておかないといけない。

 ということで、今日は僕とロランだけだ。


「どうする……?」


 二人が寝込んでいる間、僕たちだけでもクエストをこなさないと。

 別にお金が足りないというわけではない。

 これまでのクエストで、そこそこの蓄えはあった。

 しかし、だからといって遊んでいるわけにもいないだろう。


 風邪をこじらすと、一週間くらいはこのままかもしれない。

 冒険者ギルドには、一週間に一度は最低1つクエストをこなさないといけないというルールがある。

 もしそのルールを破ったら、冒険者カードの取り消し処分になってしまう。

 このルールはパーティーに課されるものだから、僕たちさえクエストをこなしておけば、エリーたちが処分を受けることはない。

 冒険者カードだけが目当てで、クエストをろくにこなさない連中が増えたことによる措置だ。

 冒険者カードは、それを持っているだけで、ある程度の効力があるからね。

 いちばん気軽に手に入る身分証だ。


 それに僕たちには、まだまだお金をためておかないといけない理由もある。

 とにかく、僕たちは遊んでいるわけにはいかない。

 僕とロランだけでも、なにかクエストをこなしておかないと。


「じゃあ、今日は二人でクエストを受けようか」

「お、そうだな……! 俺とノエルなら、なにがこようと大丈夫だ!」


 とはいえ、心配だなぁ……。

 だって、戦闘員はほぼロランだけってことになる。

 まあ、僕だってこうなったらさすがに少しは戦うけどさ。

 だけどエリーの火力とマリアの防衛力がないのは不安だ。

 もちろんさすがに、二人だけで危険なクエストにはいかないよ。


 なるべく、戦闘系のクエストは避けておこう。

 僕だって、戦闘以外なら、多少は役に立てるだろう。

 採取クエストや、調査クエストなんかでも、そこそこのお金にはなる。


「さすがに二人だけでSランクは無理だよね。Aランクでもちょっとやばいかも……。安全をとって、Bランクのクエストを受けることにしようか」

「そうだな、俺も賛成だ」


 Bランクのクエストでも、そこそこのお金にはなる。

 無理にAランクをこなしていくよりも、その時間でBランクを二回こなしたほうが確実だ。

 僕たちは、Bランクの採取クエストを受けることにした。

 これならなんとか僕とロランだけでもこなせそうだ。


【嘆きのダンジョンにて、コルレット鉱石を採取せよ】


 嘆きのダンジョンか……きいたことのないダンジョンだ。

 ダンジョンというのは、この世界に現れたり消えたりする。

 中のダンジョンコアを壊すと、ダンジョンは完全に消滅する。

 魔力の磁場が崩れると、その場所にダンジョンが現れるのだ。

 ダンジョンは、理論上はこの世界のどこにでも出現する可能性がある。

 それは、たとえ街中でもだ。


 だからこの世界には、無数に大小さまざまなダンジョンが存在する。

 このダンジョンはまだ行ったことのないダンジョンだね。


「新しくできたダンジョンかな……。まあ、Bランクのダンジョンだから、そこまで危険はないだろう」


 僕たちは、嘆きのダンジョンへと向かった。


 

 ◆



【受付嬢視点】



「あれ……? ここに張ってあったクエストどうなりましたか……?」


 私は、クエストシートを見ながら、同僚に確認する。


「そのクエストなら、さっき冒険者さんがもっていきましたけど……」

「げ…………」

「どうしたんですか?」

「それが……今クエストの控えを見たら……。このクエスト、どうやら危険度の表記が間違っていたみたいなのよね……」

「え……それって、まずくないですか……?」

「うん、まずい」


 そのクエストは、嘆きのダンジョンでの採取クエストだった。

 クエストカードの控えを見ると、そこにはBランクのクエストと書かれていた。

 だけど、別のクエストカードと見比べると、明らかにこれは間違っている。

 嘆きのダンジョンは、Aランク指定のクエストなのだ。

 誰かが間違えてBランクと書いてしまったらしい。

 それがそのままクエストボードに張られ、冒険者たちが持って行ってしまった。

 

 このようなことは、ギルドとしては本来あってはならないことだ。

 もしこれがバレたら、首になるかもしれない。

 冒険者たちの命にかかわることだからだ。


「どうしよう…………」

「あ、でも大丈夫よ? そのクエスト持って行ったの、【霧雨の森羅】の人たちだから」

「あ……そうなんですね……。よかった……。彼らなら、大丈夫よね……」


 冒険者パーティー【霧雨の森羅】は、Sランクのパーティーだ。

 しかも最近名を上げていて、腕もたしかな人たちだ。

 もしこれが、もっと弱い並みのパーティーがもっていってたとかなら大変だけど……。

 でも【霧雨の森羅】なら、Aランクのダンジョンくらい楽勝よね。


「あーよかった……。肝を冷やしたわ……。もしBランクのパーティーがもっていってたらと思うと……。責任問題よねぇ……。こっちの書き間違えのせいで死なれたりしたら……おそろしいわ……」

「まあ、大事にはならないでしょう。【霧雨の森羅】なら、BランクでもAランクでも、関係ないですって。すぐに帰ってくるでしょう。あとでそっと謝っておけば、大丈夫大丈夫!」

「そうね。このこと、ギルド長には内緒ね?」

「もちろんです」


 でも、一つ疑問なのが、なんで破竹の勢いで名をあげているあのSランクパーティー【霧雨の森羅】が、今更わざわざBランクのクエストなんかを受けたのだろう……。

 ああ、きっとコルレット鉱石が必要だったのね。

 と、私は自分で納得した。

 採取クエストは、余分に採取したアイテムは、そのまま冒険者が自分のものにしていい。

 だから、素材を集めるついでに、採取クエストを受ける冒険者は多いのだ。


「ま。いっか。気にしない気にしない」


 私は仕事の続きに戻った。

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