第23話 伝説の剣(5)


「それにしても、すごいです……! ノエルくん……! 襲ってきた悪漢を、動かずにいとも簡単に撃退するなんて……!」


 メロメロした目で、アヤネが僕にそう言ってくる。

 だけど待って、この人話きいてた……?


「いや、僕じゃなくって……! だから、マリアとエリーがやったんだって! 話きいてた……!?」

「ノエルくぅ~ん!」

「だめだこりゃ……」


 うん。アヤネも話聞かない子だね……。

 ほんと僕のまわりはこんな人ばっかだ……。


「おい……そこのお前……!」

 

 とんでもなくドスのきいた声で、アヤネがシュバールに話しかける。

 一瞬、声が低くて誰かと思ったよ……。

 怖い……。


「な、なんだよ……! くそ……! 放せよ……!」


 シュバールのことは、ロランが地面に押さえつけている。


「お前、ノエルくんになにした……?」

「ひぃっ……!?」


 アヤネの目が怖い。


「お前、コロス……コロス……コロス……」


 アヤネに続くように、【氷上の輪廻】の他のメンバーたちもシュバールをにらみつける。


「コロス……」

「コロス……」

「コロス……」


 この人たちマジで怖い……。


「それで、こいつどうする?」


 ロランがシュバールを捕まえながら、言う。


「殺しましょう! 今すぐに! ノエルくんに牙をむく不届きものは、この私が殺します」


 アヤネはそういうが、物騒すぎる。

 いくら正当防衛とはいえ、殺しちゃだめだろ……。


「とりあえず、警察に差し出すか。逮捕してもらおう」


 と、ロランが現実的な案を出した。

 まあ、普通に考えたらそうなるよね……。

 でも、ほんと怖かったなぁ……。

 シュバール、まさか逆恨みして襲ってくるなんてね。

 みんなには助けられたよ。


「くそ……! 俺は悪くねえ! ノエルが悪いんだ!」

「うるせえ! お前が全部悪いだろ!」


 ――ゴン!


 ロランがシュバールの頭にゲンコツを喰らわせた。

 痛そう……。


「うぐ……くそおおおおおおお!」


 あらら……。

 まあ、シュバールも若干気の毒なような気もするけど……。

 仕方ない、このまま警察に突き出してしまおう。


 しばらくして、警察がきてシュバールは連行されていった。

 まあ、これでもう二度と顔をみることはないだろう。

 おそらく、このあとの刑としては、辺境の地に奴隷として送られて、一生ただ働きだろうからね……。


「まったく、シュバールのやつも馬鹿だよな。普通に俺たちと旅を続けていれば、いまごろこうはならなかったのによ。ノエルに逆らうなんて、大馬鹿やろうだよ。俺たちのノエルのすばらしさがわからないなんて、かわいそうな奴だ」

「そうよそうよ! ノエルはこんなにも素晴らしいのに!」


 ロランとエリーが謎に持ち上げてくるけど、なんか怖い。

 ちょっとこいつら宗教じみてないか……?

 

「ノエルさん、なにもせずに返り討ちにするなんて、さすがです!」


 と、【氷上の輪廻】のモエナが言ってくる。

 うん、だから僕じゃないって何度も言ってるよね……!?

 ほんとこの人たち話をきいてくれない……。


「いや、マジで僕なにもしてないからね……?」

「さすがです!」

「いやだから……そうじゃなくて……。全部マリアとエリーがすごいだけなんだって……!」


 なんか、さっきから野次馬や見物人も集まってきていたし、謎に拍手されたりしてるし……。

 これはまた、面倒なことになりそうだな……?


 これは後日わかったことだが、「閃光のノエルが悪漢を素手でやっつけた」だの「閃光のノエルが悪漢を謎のパワーで撃退」だの、さまざまな噂が流れることになった。

 もう……勘弁してくれ……。

 閃光のノエルの名がこれ以上知れ渡ると、引退できないじゃないか……!

 しかも僕が伝説の剣を抜いたことにもなってるし、噂って怖いね。


 その後、僕たちは酒場に行って、みんなでどんちゃん騒ぎをした。

 こうなったらもう、全部飲んで忘れてしまおう。

 はぁ……引退したい……。

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