憐憫に棘

憑弥山イタク

憐憫に棘

 死にたい。

 生きることが難しい。

 そんな言葉をよく耳にして、その度に私は、彼等に対して憐憫の情を抱く。

 斯く言う私も、生きることに疲れた時期がある。クラスメイトとの間に生まれた溝。深く、禍々しい、泥水さえ美しく見える程の穢い溝。その溝の匂いに胃と心を壊され、死んでしまいたくなった。

 私は、死にたくなれど、死ななかった。心と胃が壊されても、私の手は、首吊り用のタオルも、ナイフも握らなかった。脳が死を望んでいても、体が、死を肯定しなかった。

 今、私は生きている。壊れた胃と心も、僅かずつ、ほんの僅かながら修復した。

 ネットの海を泳ぐ度に、嫌な言葉が聞こえてくる。死にたい、生きたくない。血を吐くような声で呟く者達を見つけては、過去の自分と彼等を重ねてしまう。

 故に、手を伸ばしてしまう。声をかけてしまう。何か手助けはできないだろうか、何かの役に立てないだろうか、そんなことを日々考えてしまう。


 それが例え、私の血と命を吸い取る、毒のいばらであったとしても。

 私は、愚かにも手を伸ばしてしまう。

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憐憫に棘 憑弥山イタク @Itaku_Tsukimiyama

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