記録4:任務
{ }内は筆者からのなぞなぞです。解かせる気はあんまりありません。でも考えれば分かったり...
❖
初めて家族以外の人と過ごすことが初めてだったので、先の事件のほとぼりも冷めたのも相まって最初の方はよく覚えている。
「はぁ...」
ムルがため息を付いて机に向かって伸びをした。相変わらず食卓には豚肉が残っている。彼女は子供らしくピーマンとか人参とかを嫌いとは言わない代わりに、無宗教のくせに何故か豚肉だけを唾棄するように嫌うのだ。
理由を何度も聞いたが、中々教えてくれない。そしてハルも知らないと知ったときにボクは諦めた。長年一緒にいたのに教えてもらえないなら結構深い訳があるのだろう。そう思うことにしたのだ。
食後は、基本は三人でじゃんけんをして順番にお風呂に入って、負けた人は後片付けをする。
大抵ムルが負けて泣きそうな顔になったところでボクがやるというのがテンプレだった。
僕が通っていた高校にも警察が潜んでいるということで、大久保が用意してくれた世間には知られていない学校に通うことになった。
そこは学費が全てどこかの組織から出ているようで、学校の正確な資金源は僕にもわからない。
ちなみに、学校までは護衛車両とバスで揺られて、バスは外の景色が一切見えないようになっているので、学校の正確な位置すらもわからない。ただ、冬に雪が降っていたので東北地方の何処かにあるのは間違いなさそうだ。
僕の他の生徒達は、皆普通の人間に見えたが、全員が野心家でまさに革命を起こさんとしたようなメンバーだった。全員が本名を隠すというような謎の校則が存在し、時々政府のお偉いさんが視察に来たりもしていた。
あとから聞いた話、スパイ養成学校だったらしい。大久保が笑いながら言っていた。
勝手に人を誘拐しておいてスパイ育成学校に突っ込む国って一体どうなんだと思うが、戦時中だから仕方ないのだろう。
大久保に、もしもこの学校に従わなければどうなるのかを聞いた所、半ば冗談のような口調で抹消されるとだけ言っていた。多分マジだ。
そして、数年ほど過ごし、卒業間近に迫った時、ついに東京に核ミサイルが落ちた。
慌てふためく政府そっちのけで、自衛隊と警察率いる革命隊によるクーデターが発生し、政府が倒れた。
...にも関わらず、特に僕達含め、市民の生活に変わりはなかった。民主政捨てたのに...
そんなある日だった。仲良く三人でクラス僕達のもとに、大久保が数人の護衛を付けてやってきた。
僕に直々に依頼しに来たというのだ。
胡散臭さ満点だが、とりあえず話を聞くことにした。
しかし、大久保は僕に手紙を一枚渡して、読んでおくようにとだけ言って帰ってしまった。
恐る恐る三人で中身を見ていると、そこには端的にこう書かれていた。
『拒否不可命令:国会議事堂への放火 日時(不許可(これはいかなる場合でも口外禁止と言われたので))』
この後に史実によるネタバレが混じっていそうだが、とりあえず僕は指定された時間にその場所に行った。
大久保が僕にカバンに入ったプラスチック爆弾と起爆装置を渡してくれた。
夜間行動で、流石に一人だったらバレるかもしれないということで、政党各種に潜ませておいたという大久保直属のスパイが正面から突破しながら、ハッキング部隊が監視カメラの破壊。僕がその合間を縫って敷地内に特別な服を着て侵入。
爆弾を仕掛けたのち、離れて翌朝に爆破。僕に爆破装置をもたせる意味があったのかと疑問に思ったが、大久保は僕を試すためだと言って、僕に国家近衛隊の資格をくれた。
その後も学校に通いながら生活し、卒業と同時に僕達はばらばらになったというわけだ。
◆
「どう?満足した?」
僕はムルの方を向いて言った。
「うん...」
「じゃ、寝よっか」
「うん...」
ムルはベッドに倒れ込んですぐに眠ってしまった。
僕はそそくさとベッドから這い出て玄関まで向かった。時計はもう夜の一時を指している。
ドアを開けると、そこには国家近衛隊の別部署の上司、中峰(ナカミネ) 実乃花(ミノカ)がいた。いくら熟練の諜報員だとしても、僕の地獄耳には敵わないのだ。
僕が彼女をじーっと見ていると、彼女は恥ずかしそうな顔をしながら、こめかみ辺りをポリポリと掻いた。
「どうしたんですか?実乃花准佐(じゅんさ)、こんな夜更けに...任務でしょうけど、眠いので端的にお願いします」
「いくら盗聴されてたからって、上司にその言葉遣いはないゾ☆」
「三十路独身の人が使う言葉じゃあ―――」
「それでは!これを読んでおいて下さい!」
中峰は僕に一通の封筒だけを残して風のように去ってしまった。
唖然として立ち尽くす僕は、一旦封筒だけを回収してデスクの証明を点けた。
封筒には国家近衛隊の印鑑が押されていた。
裏面のシールを剥がして中身を見てみると、そこには一見何も書かれていない紙が一枚あるだけだった。勿論透かしても文字などは一切見えない。
{じゃあ、何だと思う?
ヒント:役所で使われる技術です}
一旦、僕はコピー機の方にそれを持っていって印刷してみた。
出てきた紙には案の定文字が浮かび上がっていた。戸籍謄本とかにも使われてる技法が使われていたようだ。しかし、文字が浮かび上がっただけで、中には意味のわからないことが書かれていた。
『明日の九時二十分、ここまでムルちゃんと一緒に来てね→41d.12.52.62d.93/sakura/21room』
{これも近衛隊の鉄板ネタだ。読者(きみたち)も十秒程度考えてみよう!
ヒント:最初の/まではどこの『ビル』か、そしてその後は全部何号室かを表している}
僕は爆速で解読して、さっきの暗号が『第二ビル421号室』と示していることは分かった。
とりあえずここに行けばいいと分かって、僕はソファで眠りについた。
◆
「...い...めい...恭明。起きて」
まだ日も昇っていない時間帯に、ムルが僕を起こした。彼女は僕のお腹の上に乗って怒った顔をしていた。僕がトイレの場所を教えると、ムルはそうじゃないと更に怒った。理由を聞いてみると、僕が彼女の隣で眠らなかったのを怒っていた。
謝っても許して貰えそうにもないので、まだ時間があることを確認して、ムルと一緒に眠ることにした。
彼女の仄かな温かみが僕の腕に巻き付いた。
少しくらいなら、と邪な考えが頭をよぎる。
急いで頭を振ってその考えを振り下ろしたと思えば、今度はムルが僕の腹の上に乗って僕を見つめて言った。
「触っても...良いよ?」
僕がムルに手を伸ばした時、違和感に気づいた。その瞬間、世界が吸い込まれるように消えてなくなった。
◆
ピピピ...ピピピ...
アラームの音が鳴り響く。午前八時、定刻通り起床だ。問題ない。ムルの方を見に行くと、まだ眠っているようで、寝息をスースーと立てていた。少しでも触っておけばよかったと、夢の中のことが少し残念に思えた。ムルをゆすり、起こしたが、中々反応はなく、僕は先に着替えることにした。
着替えながらどんな任務なのかを少しばかり考えた後、ムルがついに起床した。午前八時十六分、遅刻だ。近衛隊なら、即刻除隊案件だろう。
そんな自分の冗談にくすっと笑いながらムルの方に向かった。
僕が机の上に置きっぱなしにしていた紙を見たのか、彼女はもう着替え終わっていて、昨日僕が買った服ではなく、殺し屋専用の服を着ていた。少し残念だったが、まあ、仕方ない。
ムルに朝ご飯を食べさせて出発した。午前九時、定刻通りの出発だ。
第二ビルまでは歩いて向かった。監視カメラになるべく映るような道を選んで通り、午前九時十五分、定刻通りに到着した。
エレベーターに乗り込み、421号室に向かった。
扉をノックしても返事がなく、僕が扉を開けると、そこはもぬけの殻だった。灰皿に吸い殻はなく、小さめの手紙が置かれているだけだった。手紙にはこう書かれていた。
『書き忘れてたけど、午後の方ね』
「持ってこいよ...あの三十路...」
僕はこれまでにないくらいの大きなため息をついて客用の椅子に倒れ込んだ。ムルも眠い目をこすりながら僕の隣りに座った。
十二時間待機という地獄が始まるのだ。近衛隊では、不用意な外出が避けることが望まれる。だから、部屋から出てトイレに行くことは許されても、外に出て昼食、とはいかないのだ。
三十分ほど静寂の時間を過ごし、ムルの二度寝が始まった。よく寝る娘だと思いながら、僕は立ち上がった。デスクの引き出しを引いて、先に任務内容を確認した。
任務内容書には大台ヶ原周辺の調査とだけ書かれていた。ちなみに、大台ヶ原は奈良県と三重県の県境ぐらいにある山で、降水量が多い事で有名だ。また、天気が良ければ富士山が見えるらしく、それを目的に足を運ぶ登山客もいるという。
任務用の装備までしっかりと書かれていたようだが、足音が聞こえてきて、慌ててデスクの引き出しを閉じて、ムルの隣に座り込んだ。
座り込んだ衝撃でムルが僕の膝に倒れ込んだ。
扉が開き、近衛隊服を着た中峰が入ってきた。黒いオーバーコートのような服に三本の赤いラインの走った服に輝く勲章と金色のボタンはいつ見ても少し不気味だ。
中身値は僕とムルを見て勘違いを引き起こし、あらあらと言って笑いながら彼女は自身の椅子に座った。
デスクに肘を置いて、適当に謝った後、僕に任務を伝え始めた。
❖
国民身分証
名前:中峰実乃花
職業:国家近衛隊諜報部准佐
経歴:防衛大学校卒後、革命隊に参加し近衛隊准佐に就任。
身長・体重:169cm・64kg(筋肉もありますが、とある部位が大きいので...)
年齢:31
独身()
◆
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『任務詳細』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます