クズスキル、〈タネ生成〉で創ったタネが実はユグドラシルだった件
Ryoha
1章
001.追放
「これで俺も一人前になれる」
その想いが俺の胸の中で溢れかえっていた。
15歳の誕生日を迎えた今日、俺は〈スキル授与の儀〉のため、アストリア侯爵家の家族とともに神殿に向かっている。
「そう身構えなくていい。お前はきっと素晴らしい力を授かる」
父の声が馬車の中に響く。ヘルバート・アストリア侯爵。冷静で厳しいけれど、公平な判断をする人だ。
しかしそうは言われるが緊張しないほうが難しい。なぜなら、生まれつき魔力の素養が高いとされていた俺は、父や家臣たちの誰もが俺のスキルに大きな期待を寄せていることを知っているからだ。
アストリア家は代々、強力な戦闘スキルや魔法スキルを持つことで名を馳せており、長兄ロドリックは剣の天才に贈られる〈剣聖〉のスキルを、次兄グレイヴは地獄の炎魔法を自在に操る〈獄炎魔法〉のスキルを授かった。そして俺、リクルス・アストリアがどんな力を得るのか、俺自身、期待を不安を膨らませていた。
馬車に揺られること数時間。俺たちは神殿に到着した。そこは白亜の石柱がそびえ立ち、中央には大きな魔法陣が刻まれている。これがスキル授与の祭壇だ。歴史の中で幾多の英雄たちがここでスキルを授かり、その名を刻んできた場所。
「リクルス・アストリア、祭壇へ」
司祭が俺の名前をよんだ。俺は緊張しながらも堂々とした足取りになるように気をつけて祭壇の中央に進み出る。
どれくらい経っただろうか。神への祈りの言葉が響き渡る中、祭壇が淡い光を放ち始めた。その光は徐々に強くなり、俺の身体を包み込む。
「結果が出ましたな」
司祭がそういうと光が収まり、俺の目の前にウインドウが現れてスキルの名前が浮かび上がった。
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〈タネ生成〉
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……ん?
俺は一瞬、理解が追いつかなかった。タネ生成――それは、何だろう? 耳にしたことのない名前だ。もしかしたら、強力なスキルなのかもしれない。けれど、周囲の反応を見るとしんと静まり返っていて、言いようもない不安が込み上げてくる。
静寂を破ったのは次兄グレイヴの嘲笑だった。
「タネ生成? お前は庭師にでもなるつもりか?」
「いや、庭師ですら必要ないだろう」
グレイヴの言葉を否定するように長兄ロドリックが言葉を被せる。
「タネなど生成して何になる? 戦闘にも魔法にも使えないだろう。それともタネでも投げるか?」
周りからはクスクスと笑う声が聞こえてくる。俺は俯き何も見ないように努めたけどダメだった。なぜなら父の視線が冷たく俺を射抜いているのが分かったからだ。
「リクルス。お前には失望した」
「ち、父上、しかしまだこのスキルが使えないと決まったわけでは」
「ならばここでそのスキルが無価値でないことを証明して見せろ」
震える手で、俺はスキルを発動した。使い方はなぜかは知らないけどなんとなくわかる。目の前に広がったウィンドウを操作して〈ランダムタネ生成〉のボタンを押す。
手の中に何かが生まれる感覚――やがて現れたのは、小さな茶色い種だった。
「これは……ウォーターウィード」
司祭が言った。
「ただの雑草の種ですな」
その瞬間、神殿内に嘲笑が広がった。兄たちが笑い、父の瞳には怒りが宿っていた。
「リクルス。お前には家を継ぐ資格はない。このクズスキルではアストリア家を支えるどころか、貴族としての役割も果たせない。よって今日をもって、お前を追放することにする」
「ですが、彼はまだ――!」
母が震えた声で父に抗議する。けれど、父はそれを一喝した。
「黙れ。この恥を家に置いておくわけにはいかん!」
俺は立ち尽くすしかなかった。誰も俺を守ってくれない。母ですら父の決定に逆らうことはできない。俺はただ、立ち尽くすしかなかった。
俺はそのまま神殿の一角に呼び出された。そこには転移用の魔法陣が刻まれている。古代文明が作ったとされるアーティファクトだ。現代の技術では再現できない機能を持った魔道具。きっと今までも俺のようなスキルを持った人たちがこれを使って転移させられたのだろう。
「お前はここから不毛の地デザレインへ送る」
父は言った。
「戻ることは許されない。生き残りたければ、そのスキルで何とかするのだな。まあ無理だとは思うが」
俺は転移陣に足を踏み入れると、光が広がる中、家族を振り返った。母は涙を浮かべながら、俺を見つめている。その顔を見て、思わず手を伸ばしそうになった。
でも、俺はやめた。もう意味がない。
転移の光が消えると、そこは荒れ果てた大地だった。
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