二章 君との約束
第8話 醜い姿を知られてでも ①
朔夜side
2週間と少し前に夏休みが終わり、今は9月中旬の土曜日。
でも夏の暑さは今も続いていて、長袖なんてとても着れそうにない。
唯鈴とずっと一緒にいると約束したあの日からは、2ヶ月弱が経過した。
最近ネットを見ないようにしているということもあってか、死にたいとは思うことはなくなった。
昴たちとも、前よりは仲良く出来ていると思う。
でも、唯鈴を救う方法は何一つ思い浮かばない。
何せ、唯鈴が死んでしまう理由が病気だったとして、その病名が分からないのだ。
ならなんの仕様もない。
毎日、唯鈴の幸せを願ってはいる。
でも、神はきっと俺に怒っているだろうし、とても叶えてくれるとは思えない。
それにそもそも、神が存在するかも分からないのだ。
だから願っても、無意味のようにも思える。
けれどそうでもしていないと、無力な自分に腹が立ち、変な気を起こしてしまいそうだから。
唯鈴との約束を破ってしまうのは避けたいし、不確かな神へ願う日々を送っている。
そんな今日、俺と唯鈴は母にお使いを頼まれている。
食材を、それも結構な量の。
少しだけだとしても、昼になると暑さが増すので、なるべく朝のうちに済ませておきたい。
そう思い、現在時刻は午前の8時。
身支度を済ませ、これから家を出ようといった所だ。
唯鈴が中々部屋から出てこないため、ノックをして声をかけてみる。
「唯鈴、準備出来たか?」
「あっ、ちょっと待って!」
ほんの数十秒後。
準備を完了したらしき唯鈴が出てきた。
そして、俺はあることに気がつく。
「今日はポニーテールなのか?」
そう、珍しく唯鈴がポニーテールをしていたのだ。
可愛いな……って、思うだけでも恥ずいな……っ
唯鈴にその一言を伝える日はまだもう少し先になりそうだ。
「そう!どう?似合ってるかな?」
「っ……」
まさかの質問だ。
なるべく可愛いと伝えてあげたいが、俺の心臓がもたなそうだから。
「ああ、似合ってる」
「やったあ!」
嬉しそうにする唯鈴を見てホッとする。
可愛いと言わないことで悲しませるかと思っていたが、大丈夫そうだ。
唯鈴は上機嫌のまま階段を下り、玄関へ向かう。
「じゃあ、早速行こうっ」
「階段から落ちるなよ〜」
「大丈夫ですぅ〜」
ほんとかよ、と思いながらも口には出さずに後をついて行く。
そして靴を履き、母に行ってきますと言って家を出た。
「まだ8時だけどやっぱり暑いね〜」
「そうだな」
ここからまだ暑くなると思うと、自然と足が早く動いた。
「ちょ、ちょっと朔くん!歩くの速いよ〜!」
唯鈴が後ろから駆け足でやってくる。
つい唯鈴を置いていってしまった。
「悪い。暑くて足が勝手に……」
「あははっ、しょうがないよ、この暑さだもん」
唯鈴の寛大さにはいつも驚かされる。
逆に何をしたら怒るのか気になりながら、今日も優しいなと思っていると。
「ってことで、私がまた置いてかれちゃったらいけないから、手、繋ご?」
「なっ………」
唯鈴の誘いに俺はたじろぐ。
……嫌な訳じゃないけど、手繋ぐとかしたことないから手汗ヤバくて引かれたりしねぇかな……
なんて気にしていると、そんなことを気にする俺がキモイことに気が付き、俺はすぐに手を差し出した。
「……ん」
……いや、差し出したとは言えないかもしれない。
でも唯鈴はそんなこと気にしていないようで、顔をぱあっと明るくして俺の手を握ってきた。
「!やったっ……って、ふふっ。朔くん耳赤いよ?」
「……しょうがないだろ」
好きかどうか以前に、唯鈴は世間的に見ても可愛い顔をしている。
そんな子と手を繋ぐなら耳が赤くもなるだろう。
まぁ、俺も男子高校生だということだ。
意識しているのは俺だけか、と思い唯鈴の方を見てみると、唯鈴も少し頬が赤かった。
っ……そっちもじゃねぇか……
落ち着かない、スーパーに着くまでの10分間。
その後の会話はよく覚えていないけど、天気がどうやらの話をずっとしていた気がする。
今まで恋愛などをしてこなかった俺がかっこよく振る舞えるはずはないけれど、心の中でちょっとくらい出来るだろ、と思っている自分がいた。
でも現実はこのザマだ。
恋愛とは勉強の何倍も難しいことを知る。
スーパーに着いたので、これから買い物をする間はカゴを持ったり商品を手に取ったりと、中々手を繋げないだろう。
心を落ち着かせるのには丁度いい時間だ。
だから別に、もう少し繋いでいたかったなんて思っていない。
「朔くん、何ぼーっとしてるの?早く入るよ!」
「え?あ、ああ」
本心を隠すのも至難の業だな。
なんて学びを得ながら、俺たちはスーパーの中へと入った。
「朔くんお醤油ってどこ?」
「確かあっちにあったと思うぞ」
「そっか、ありがとうっ」
そうして醤油などの調味料が売られているコーナーに向かっている途中。
牛肉の試食が行われていた。
「えっ、朔くん何あれ!」
「ああ、唯鈴は見たこと無かったか」
何せ試食はたまにしか行っていないから、唯鈴と出会ってもう5ヶ月だと言うのに、まだ遭遇したことがなかったようだ。
「あれは試食って言って、試しに商品を食べることが出来るんだ。もし食べてみて美味しかったら、その商品を買おうと思う人が出てくるだろ?店側はそれで客が商品を購入することを狙ってるんだ」
「なるほど!でも、私はそう簡単に買わないぞ〜?だって、毎日椿さんの美味しい手料理を食べてるからね!」
と唯鈴は試食する気満々で、すぐに「1つ下さい!」と言って食べに向かった。
俺も食べてみる。
味付けは塩コショウというシンプルな味付け。
でも……
「うまいな……」
「おいしい〜っ!」
2人で声を上げて絶賛した。
そこで俺は、光の速さでカゴに牛肉を入れている唯鈴に気がつく。
「おい唯鈴、簡単に買わないって言ってたのはどこのどいつだ?」
「だって〜……ふふっ」
「笑って誤魔化すなよ?俺は見逃さないぞ」
「だって自分でもおかしくてっ……手のひら返すの早すぎるよっ」
結局、母に渡された買い物リストに含まれていない、牛肉も買って帰った。
きっと帰ったら母さんは、「唯鈴ちゃ〜ん?」なんて言って全く怖くない黒い笑みを浮かべてくるのだろうけど、結局は唯鈴が可愛くて簡単に許してしまうのがオチだ。
そう帰ってからの光景を想像していると、家まであともう少しの場所まで戻ってきていた。
時刻は午前9時15分。
家からスーパーまでの歩く時間も入れて計算すると、スーパーには1時間ほどいたことが分かった。
そして、外の気温に変化を覚える。
やはり、8時よりも少しだけ気温が上がっている気がする。
この暑さはいつになったら終わるのやら。
一帯を照りつける日光にうんざりしていると、唯鈴が
「ねっ、海行かない?」
と言い出した。
「
「え〜、じゃあ1回家に帰ってからまた来よ?」
暑いのは嫌なんだけど。
「そんなに行きたいのか?」
「うん!暑いから余計にねっ。足だけでも海に入って、涼しくなりたい!」
……確かにそれは一理ある。
「じゃあ荷物置いてからな」
「うん!」
そして俺たちは一度家に帰り、買ってきた食材を片付けてから海へと向かった。
「ひんやり気持ちいい〜っ」
「だな」
足を冷たい海水に濡らし、風を感じ、涼しさで体が包まれる。
直射日光でも海に入っていればそれなりに涼しい。
来て正解だったと、10分前の自分を褒めたくなる。
足元の海水を眺めていると、唯鈴が俺に海水をかけてくる。
「……やったな?」
「きゃー!朔くんこわ〜い!」
「ほらっ」
「わっ!」
お返しに俺も海水をかけてやった。
それに唯鈴は更にやり返してきて。
しばらくの間、お互い海水をかけ合っていた。
その時、海水を手で跳ねさせて、濡れながら笑っている唯鈴が、とても綺麗で、愛らしくて。
……唯鈴、そういや自分の絵を描いて欲しいって言ってたな。
もしいつか、心の整理がついて絵を描くことになったら。
その時はここで、水平線を背景に笑っている唯鈴を描こう。
きっといい絵が出来る。
でも、その「心の整理がついた時」がいつ来るのかは分からない。
今こうしている間も、唯鈴の命は削られていっている。
だからもしかしたら、唯鈴が生きているうちに絵を描くことが出来ないかもしれない。
そう思うと、急に
「……唯鈴」
「なあに?」
「聞いて欲しい話があるんだ」
「……うん、分かった!」
汚く弱い、俺の姿。
でも何故か、話しておかないと後悔するような気がしたから。
俺と唯鈴は一度海から上がり、波から少し離れた所に座る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます