二万光年を超えて

事後和人

超光速航行

 背後で空間が崩壊しつつあった――超現実的なスカイブルーに輝く群雲を縫って、船は超光速航行空間チューブを走り抜けていた。

 白銀の矢尻に似たそれは流され船ドリフトシップであり、チューブの波打つ空間を高速で飛び抜けるために特化した設計だった。

 ただ、それでも困難な旅路である。八千年も前に何者かが設置したチューブの全貌を把握しているものは銀河中に誰もいない。ましてこのような辺境の区域セクターともなれば、空間の安定性にも疑問符がつく。

 白亜の巨大な操舵室、その中心に船長は浮かんでいた。腕組みをして円形モニターの光景をにらみつける。崩壊した通路は群雲に飲みこまれてしまう。雲は高次元時空の粒子が通路空間へ衝突した際の光だ。通路を踏み外せば瞬間的に船は切り裂かれ、虚空ヴォイドへばらまかれるだろう。

 操舵室にチャイムが響いた。船長の隣で副長が言う。


「目標の惑星まで残り五十秒です」


 船長はうなずき、自ら投射プロジェクションで目的地へ降り立つよう、手元のコンソールに最終命令を打ちこんだ。


「ご武運を」


 副長の言葉をきっかけに、操舵室の全員が船長に敬礼する。船長も敬礼を返し、決意を新たにした。

 これは危険な賭けだ。だがそれに見合う報酬は十分に得られるだろう。

 目的の物を手に入れられれば、すべてが報われるのだ。


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