神聖なひよこ

@busukou-ai

第1話

キーンコーンカーンコーン

 長い国語の授業が終わるチャイムが鳴りました。

 大西さんに、あたけさんに浅田さん。みんな私のところに集まってきました。ねえねえ、あたけさんとこひよこ飼ってるんだけど、この前の夏祭りの縁日の屋台でつかまえた、とびきりじょうとうのひよこ。 

 そう言ってわたしの前でひよこを見せました。

 全身金色に輝くうぶ毛。頭のかたちなんて。なんてかわいい。くちばしだって。

 みんなひよこを前にして、いっせいに小さな小学三年生の手を開けてみました。

 あっ、太田さんの小さな手のひらだけ、黒いスポットがある!浅田さんが言って笑いかけたその時、全身金色のひよこが、わたしのわたしだけにある、黒いスポット、黒い小さな豆粒みたいな汚れをその丸いくちばしでつつきました。

 みんな、あれー。ひよこさんエサと間違えたんかな。

 と、てんやわんやの大騒ぎ。

 担任のきれいな花野先生も見に来ました。

 その先生も、ほんときれいでどこが名前のとおり華があり、通信簿にもわたしの欠点のところに、すこし感受性が強すぎるところがあるみたいです。とだけ書く、こんな、優しい先生いままで会ったことなかった。というそんな先生が、神聖なひよこがつついたわたしの小さな手のひらの黒い粒を見ました。

 それもいいことしてあげましょう。わかりましたね。太田さん。

 そのひよこからつつかれた日から、日増しにどんどん黒い粒は薄くなって、数カ月後にはあとかたもなくなりました。

 あたけさんに、あのひよこ大きくなったか聞きました。

 うん、太田さん。もうすぐ赤いとさかが、生えてくるところで勇ましくコケコッコー鳴くよ。朝うるさいかもしれんけど、太田さん遅刻せんようにな。

 お正月おもちも食べ過ぎないようにな。

 なんかうちおもち食べすぎないようにな、の、年賀状少なくとも毎年五通は届くんやけど、そんなにわたし太ってる?

 健康診断の紙の裏側、身長にたいして体重、標準のど真ん中やで。 

 まぁ、笑われときな。

 ひよこても神聖なときは短いで。

 そんなときなら、たとえはなんやけどキリストみたいに、そんな小さい子の手のひらのしみくらい、上手に消し去ってくれるんかもしれん。

 うん。

 それじゃな。

 二十年後振り返ってみて、大きくなった手を開けてみる。そこに今もあとかたもなくなった黒いスポットのあとの、生まれたばかりのような肌をのぞかせている地肌を見て、わたしはほんとうに神に感謝するのだ。

 

おわり


これはほぼ実話です。

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