第5話 庶子である差別
「おねーさーまー」
ガチャガチャと音を鳴らしながら、フルプレートアーマーがこちらに駆けてくる。魔鉄の塊に姉と言われたくないが?
それに何故にまだフルプレートアーマーを着ているのだ!
「私は顔をかせと伝言を頼んだはずだが、何故にまだ鎧を着ているのだ」
私は目の前にいるフルプレートアーマーに尋ねる。すると、ビクッと肩を揺らし、ガタガタと震え始めた。
いや、私はただ疑問に思ったことを聞いただけなのだが?
「おおおおお」
「お?」
「お姉様に……今回、ぶぶ無様に負けたことを…………ぼぼぼボコられると……思いまして」
そうか、ついさっき褒めたことはリセットされてしまったのか。テオの頭には何が詰まっているのだろうな。
私はニコリと笑みをテオに向ける。
「ひっ!」
一歩下がるフルプレートアーマー。なんだ? 私は軍服を着ているが、帯剣はしていないぞ。
私はカツカツと石畳を鳴らしながら、フルプレートアーマーに近づく。そして近づくほどガタガタと震える具合が酷くなっていくフルプレートアーマー。
目の前の金属をコツンと軽く小突く。
「がはっ!」
身体が大きく揺れたものの、倒れることはなかった。領地から離れて訓練をサボっているかと思っていたが、意外にも続けていたようだ。
「テオ。ファンヴァルク王弟殿下のところに向かうので、着替えてきなさい」
「……はい。おねえさま」
返事は返ってきたものの、ヨタヨタとしながら、フルプレートアーマーが闘技場の方に戻っていく。
うーん。やっぱり騎士団にはもったいないなぁ。今からでも軍部に鞍替えしてもいいのではないのか?
そして、軍服を着た私が、黒い隊服を着た黒騎士と、灰色の隊服を着た見習い騎士を引き連れて王都の中を歩いている。ということは、とても人々の視線を集めてしまっているということだ。
まぁ、ここが王城の区画内でまだよかった。王城の周囲二
「テオ」
「はい。お姉様」
「何故騎士なのだ? テオほどの腕があれば、軍の幹部候補ぐらいにはなれるだろう?」
一年前、初等科の後に中等科に進むかと聞いたときに言われたことは、騎士になるだった。理由を聞けば、かっこいいからという子供らしい答えだったが、今日私が見た光景がかっこいいかと言われると首を傾げてしまう。
「え……あ……おれは……庶子なので、幹部候補には……」
その言葉に私は足を止めて、振り返った。
「あ? 誰かに馬鹿にされたのか?」
「ひっ!……いいえ……これは、軍部の内々で決められていることらしいので」
はぁ。結局、貴族という者はプライドを維持させるために、弱い立場のものと区別したがるということか。
私はため息を吐きながら再び歩き始める。
「騎士という奴は結局、王都の護りを任された者たちだろう? 叔父上にも一度言ったが、騎士団と軍部に分ける意味がないと思うのだが?」
「いわゆる棲み分けというものですよ」
私の斜め前からクソみたいな答えが返ってきた。
貴族というものは血を残すことが大事だとされているためか、本妻以外に複数の奥方がいたりする。
そして、子供たち全てが貴族位をもらえるかといえばそうではない。ということはだ、貴族位を与えられない子どもたちは自分たちで食い扶持を稼がなければならない。
ここまではいい。だが、本妻の子と庶子が同じ扱いだと機嫌を損ねるのが貴族という生き物だ。
だから棲み分けが必要だと。
「クソだな。だから王都に来るのは嫌なんだ」
「お姉様。言葉遣いが……」
「あら? テオはいつでも辺境に帰ってきてくれていいのよ」
「ぐはっ! 凄い衝撃が……お姉様、丁寧な言葉に威圧を込めないでください」
昔は普通にお嬢様言葉を話していたが、そんなものは邪魔でしかなかった。私がぞんざいな言葉遣いをしているのは必要があってのことだ。いや……ほぼ地だが。
「ガトレアール辺境伯様はご兄弟方を区別されないのですね」
そのような言葉が私の耳に聞こえてきた。
アルディーラ公爵家で庶子として扱われてきた者からだ。
「アルディーラ黒騎士副団長! それはお姉様が素晴らしいからです!」
「テオ、別に自慢することではない」
私からすれば、当たり前のことだ。
「羨ましい限りです」
羨ましい。その言葉の中には、何が込められているのだろうな。
そう言えば、昔に王城でお茶会があると母に連行されたときに、いじめられていた子がいたな。
子どものいじめは案外エゲツナイなと思ったものだ。
「貴族という者は面倒くさいことこの上ない。まぁ、それももうすぐ解放される」
「え? どういうことですか?」
「直ぐ下の弟が、今年高等科を卒業する。そうすれば、弟に爵位を渡して、私は晴れて自由になれるのだ」
楽しみだな。今までできなかった好きなことが存分にできるのだ。
女が当主に立っていると色々面倒なのだ。大抵が他の貴族共から馬鹿にされる。だから、馬鹿にされない為に、ガトレアール辺境軍の軍服を着て、ぞんざいな言葉を話しているのだ。
「おおおお……おねえさま」
「ん? なんだ?」
振り返ると、真っ青な顔色のテオがいた。青い髪に青い目に青い顔をされると、寒々しいな。
「あ……いいえ。なんでもありません」
そう言ってはいるものの、私の耳はテオの独り言を拾ってしまった。
『兄上が殺される』と。
何、物騒な独り言を言っているのだろうな。
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