第29話 嫉妬で姉妹デート

「お姉ちゃんとデートしなさい」


 高らかにノエルねえが宣言する。『ふんす!』とばかりに。


「えっ、で、デート……って、デートだとぉおおおおおおおおおお!」


 デートってアレだよな? 仲の良い二人が一緒に出掛けてイチャコラするやつ。恋愛系やラブコメ漫画でよくある、恋人や恋人未満の関係が良い感じになって……セ、セッ、セェエエエエエエエエエエッ!


 し、しまった。つい興奮してしまった。

 ノエルねえがきょとんとしているぞ。


「どうしたの? そうちゃん」

「えっと、デートはまだ早いって言うか……」

「デートするのに早いも遅いもないよ」

「だって……うっ」

「ああーっ! そうちゃん、今エッチなこと考えたでしょ」

「ギクッ!」


 こんなに可愛いノエルねえと一緒で、エッチなことを考えない方がおかしいだろ。


「エッチなのはダメなんだからね」


 そう言ってGカップ巨乳を押し付けてくるノエルねえだ。それがエッチなんだよ。

 この人、ナチュラルに体を寄せてくるよな。


「ほら、デートだよ、デート」

「だから胸をくっつけるなぁ! それ、わざとだろ」

「わ、わざとじゃありません」


 頬を染めるノエルねえが可愛い。その顔はイジワルしたくなるだろ。


「ノエル姉のエッチ」

「エッチなのはそうちゃんなの」

「ノエルねえ!」

「そうちゃん!」

「ノエルねえ!」

「そうちゃん! プッ、ふふっ♡」


 途中でノエルねえが吹き出した。


「もうっ、そうちゃんってば。ぎゅぅぅ~っ!」


 笑いながらノエルねえが俺に抱きつく。両手を俺の体に回してギュッギュと。


「うわぁああ~! や、やめろぉ~!」

「どう? デートしたくなった? 何でも一つお願い聞いてくれるんでしょ?」

「まだ覚えてたのかよ」


 そういえば、嬬恋つまごいさんの件で約束したんだった。


「もうっ、誤魔化そうとしても、そうはいかないんだからね。ぎゅぅ~」


 まるで恋人にするようなハグだ。柔らかな体に包まれ、良い匂いが胸いっぱいに広がる。心も体も溶かされてしまいそうなほどの。


 こんなの誤解するなって方が無理な話だぞ。


「す、する。するから放してくれぇ~」

「やった♡ じゃあ今日はデートね」


 くっ、ゴールデンウィーク初日。まさかノエルねえとデートすることになるとは。


 さっそく部屋に戻り着替えようとするノエルねえ。良かった、そのダサジャージで出かけなくて。

 俺も軽く準備をしよう。



 しばらくすると、ノエルねえが部屋から出てきた。


「そうちゃん、行こっ」


 白く清楚系なトップスなのに、その服はタイトで体のラインが出まくりだ。ノエルねえのGカップ巨乳がモロに突き出ている。

 しかもボトムスはミニスカートときたもんだ。こちらは大胆に生足を披露していた。


「の、のの……ノエルねえ……」

「どうしたの、そうちゃん?」


 軽く首をかしげて不思議そうな顔をするノエルねえ


「どうしたじゃないって! そんなエロい格好で外を歩く気?」

「エロくないよぉ。普通の服だもん」


 そうだった。ノエルねえは何を着てもエロいんだった。ダサジャージでもエロいんだった。


「服がエロいんじゃなかった。ノエルねえがエロいんだったぁああ」

「え、エロくありません!」


 ノエルねえは、体全体を使い全力で否定する。巨乳をぶるんぶるん揺らしながら。


「やっぱりエロかったぁああああ~」

「もぉ~っ!」


 と、朝からこんなやり取りをしていると、シエルが嗅ぎつけて来ないはずもなく……。

 部屋から顔を出したシエルが俺をにらむ。


「壮太、おねえとデートするんだ」


 シエルの視線が突き刺さる。まるで大好きなお兄ちゃんを取られた妹みたいに。

 って、兄妹って意味だよな。異性として好き……なんてことは。無い無い。


『壮太はシエルを好きになる――』


 俺は深夜の催眠を思い出す。


 待て待て、あれは違う。あれは悪戯いたずらで。シエルが俺を好きなはずが……。


 ズイッ!


 俺が妄想をはかどらせていると、いつの間にかシエルが眼前に迫っていた。


「ねえ、デートするの? おねえと? 私を放置して? ねえ?」

「お、おい……」


 どうしたんだよ、シエルは? そんな悲しそうな顔をするなよ。そんな目で見つめられたら誤解しちゃうだろ。

 シエルとは家族になったんだ。俺が義姉(義妹だけど)に劣情を抱くのはダメなのに。

 省エネモード、俺の省エネモードが!


 ああああぁああ! 省エネとかエコとか言いながらぁ、実は全然エコじゃなく大人の事情や利権が絡んでいるのが現実社会だったぁああああ!


 そんな時事問題に思いを馳せていると、ノエルねえがシエルに耳打ちしているようだぞ。


「シエルちゃん、ごにょごにょ……」

「でで、デート」


 ぽっ!


 シエルの顔が赤くなった。

 ノエルねえは何を言ったんだ?


「だからぁ……明日……で……して……」

「え、ええっ、で、でも……」


 ノエルねえに何か言われて、シエルの動揺がどんどん激しくなる。


「……だよ。これで決まりね」

「う、うん……」


 おい、何が決まったんだよ。不安になるのだが。


「そうちゃん」


 二人の話がまとまったようで、ノエルねえが俺の方を向く。


「どうしたの? ノエルねえ

「今から、そうちゃんのスケジュールを発表します」


 おい、勝手にゴールデンウィークのスケジュールを決められたぞ。


「じゃじゃーん! 今日はお姉ちゃんとデート。明日はシエルちゃんとデートです♡」

「は? はぁああああああああ!?」


 し、姉妹とデートだと! しかも二日連続で。


「ほら、シエルちゃんにも一つお願い聞いてくれるんでしょ?」

「でも……シエルはそれで良いのか?」


 俺は照れ隠しのように頭を掻きながらシエルを見つめる。


「ん、それで良い」

「もっと他にないのか? 例えば三十万石に加増とか相模国さがみのくに拝領はいりょうとか」

「バカなの?」

「す、すまん」


 ちょっとボケてみたが怒られた。


 げしっ! げしっ!


 見惚れるほど綺麗な脚が飛ぶ。シエルが美脚で俺を蹴っているのだ。

 軽くなので痛くはないが。


「おい、この足は何だ?」

「べつに……」


 べつにじゃねーだろ。何だよその照れ隠しみたいなリアクションは。俺まで恥ずかしくなるだろが。


「おねえとデートするときは嬉しそうなのに、私とはしたくないんだ……」


 不満顔のシエルが口を尖らせる。不意に見せる拗ねた顔が可愛い。


「違うって。シエルとデートなんて緊張するんだよ。だって……シエルは、か、かわ、可愛……き、綺麗だから」

「うっ……そ、そなんだ……。なら許す」

「お、おう」


 何だか途中からお互いにカチコチになってしまった。何だよそれ。付き合いたての初々しい純情カップルかよ。


「じゃあ決まりね。今日が私で明日はシエルちゃん。うふふっ♡ モテモテだねぇ、そうちゃん♡」


 ノエルねえが俺の腕をとる。柔らかな体を密着させながら。


「も、モテてねーから」

「そもそも、そうちゃんが悪いんだよ」

「はあ?」

星奈せいなちゃんやショートボブの子の彼氏になろうとするから」

「彼氏じゃないから! あとショートボブって、蜷川にながわ明日美あすみさんな」

明日美あすみちゃんって言うんだぁ」


 ノエルねえの威圧感が増す。

 おかしいな? 前もこんなのあったような。

 そうだ、嬬恋さんギャルと仮彼氏になるって話を聞いた時だ。


「ほらほら、行くよ。そうちゃん」


 ノエルねえが俺を引っ張ってゆく。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……」


 俺とノエルねえは一緒に玄関を出る。ぐぬぐぬと氷の女王顔で睨むシエルに見送られながら。






 ――――――――――――――――――――


 他の子に構っていたら姫川姉妹の嫉妬が大変なことに。

 これはどうなってしまうのか?

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