第27話 立場逆転で成り上がり

 スマホから軽沢の暴言が流れる。蜷川にながわさんをおとしめるセリフと、俺をおとしいれる陰謀が。


 これが極めつけになった。

 今まで俺をストーカー呼ばわりしていたクラスメイトが、一斉に疑いの目を軽沢に向ける。


「おい、軽沢! 全部嘘だったのかよ」

蜷川にながわさんや姫川さんをSNSでイジメてたのか?」

「運動部の風上にも置けん奴だな」

「やだぁ! 悪いのは軽沢君なの?」

「女子をセ〇レとかさいてい!」


 追い詰められた軽沢は顔面蒼白になって狼狽うろたえる。


「ち、違う! これも陰謀だ! 僕は悪くない! ハイスペの僕になびかない女が悪いんだ! 僕の親は地元の名士で市議会議員だぞ! 僕に逆らったらどうなるか分かってるのか! SNSで追い込みかけて自主退学にしてやるからな!」


 完全に陽キャリア充モテ男のメッキが剥がれた。

 まさか親の権威を笠に着て威張り散らすとはな。

 しかも自分から罪を暴露している。


 ザワザワザワザワザワ――


「えっ、最低……」

「今までのイジメも軽沢が首班だったのかよ」

「シエル姫の悪い噂を流したのは許せんな」

蜷川にながわさん可哀そう」


 皆が噂する。


 軽沢は終わりだ。

 陽キャで委員長で運動部エース、皆の人望厚いクラスカーストトップの姿は、もうそこには無かった。

 誰もが卑劣な男を見る目を、彼に向けている。


「ば、ばかなぁああっ! あああぁあああぁああ! 畜生ぉおおおお! 僕はハイスペなのに! 僕はエリートの上流階級だ! 金も女も自由にする権利があるんだ! うわぁああああああああああああああああああああああ!」


 軽沢は教室を飛び出していった。

 そこには茫然と佇む俺や会長とクラスメイトが残される。


「えっと、終わったのか? これで安心かな?」


 俺は後ろを振り向き、蜷川にながわさんの顔を見る。


「もう大丈夫だよ、蜷川にながわさん」

「安曇……君……」


 グラッ!


 急に蜷川にながわさんの腰が抜け、慌てて俺が支えた。

 まるで抱き合うような格好になって。


「大丈夫!?」

「安曇君! 安曇君っ! ありがとう! ありがとう! 本当にありがとう! うわぁああああぁん」


 この蜷川にながわさんの態度で完全に誤解は解けたようだ。

 皆の俺を見る目が変わった。


「えっ、安曇が蜷川にながわさんを助けたのかよ」

「大人しそうに見えて意外とやる男だな」

「じゃあ安曇君はストーカーじゃなくて、女子の味方なの?」

「てか救世主じゃね」

「凄い、凄い! 安曇君って凄い!」


 変わったと言えば、このメンバーもだ。


「やっぱり安曇君は悪くなかったのね」

「私も最初からそうだと思ってたのよ」

「そうそう、イジメはよくないよね」


 軽沢にそそのかされて煽ってた連中だ。

 今は蜷川にながわさんを囲んで、『私たちがついてるよ』とか友達ぶっている。


 おいこら! お前ら、今朝は俺をストーカー呼ばわりしてただろが! キッチリ覚えてるからな!

 手のひらクルクルさせやがって。

 これだから人は信用できねえんだよ。

 もう面倒くさい人間関係は懲り懲りだぜ。


 省エネモードで生きる予定が、柄にもなく熱くなってしまった。

 一歩間違ったら破滅していたところだ。

 俺は何をやっているんだよ……。


「安曇!」


 そんな俺のところに、進藤会長がやってきた。


「貴様、おとこだな!」

「は?」

「自分に火の粉が降りかかるのもいとわないで女子を守る。なかなかできるもんじゃないぞ」


 バシッ!


 進藤会長は俺の背中にバシッと手を置いた。ちょっと痛い。


「そんなんじゃないですよ。俺は理性的に生きたいのに、つい熱くなって突っ走ってしまうだけです。損してばかりなのに……」


 グイッ!


 肩を組まれた。剣道で鍛えられた先輩女子の腕が、ギュッと俺の首に巻きつく。


「ふっ、だが貴様は守った。自分を犠牲にするのも恐れず。それは賞賛に値するぞ」

「そうですかね」

「そうとも! 立派だぞ。我は好きだな。貴様のような男は。惚れそうだ。ハハッ!」


 おいおい、何を言い出してるんだ。

 そっちの好きじゃないと思うが、さっきからシエルがにらんでいるのだが。

 誤解を受けるような話をするんじゃない。



 こうして、一時はストーカーのキモオタとしてさげすまれていた俺が、一躍スターのように持てはやされるようになった。

 自分を犠牲にして女子を守る騎士のように。


 だから、そんなガラじゃないんだって。



 ◆ ◇ ◆



 帰宅した俺を、ノエルねえのド迫力なGカップが強襲する。


「そうちゃぁああああ~ん! もうっ! もうっもうっもうっ! そうちゃんのバカバカバカぁ! 心配したんだからね!」


 むぎゅ! むぎゅ! むぎゅ!


 柔らかくてボリュームたっぷりで、それでいてパツパツと張りがあるノエルねえの巨乳だ。


 一日過ごした制服のノエルねえは、天上に咲くバラのような良い匂いと、微かに甘酸っぱい汗の臭いが混じり合い、想像を絶するような破壊力で俺の五感に押し寄せる。


 こんなの我慢できねえ。もう年頃男子には拷問だぜ。


「やめろぉおおおおおお!」

「ダメッ! そうちゃんてば、目を離すと心配なんだから」

「もう子供じゃねぇええ!」


 ああ、ノエルねえの匂いだぁああ……。


「すーはー」


 こんな危険なシチュエーションだというのに、俺はノエルねえの胸の谷間で深呼吸する。後ろにシエルが居るのも忘れて。

 このままノエルねえに溺れてしまいたい。


「そうちゃん、反省した? メッだよ」

「だから子供じゃないって」

「まだ反省してないの? こうだよ、こう!」


 むぎゅむぎゅむぎゅ!


 このおねえは何をやってるのだ? 俺を抱きしめて『むぎゅむぎゅ』しているのだが。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!」


 後からシエルの『ぐぬぬ』が聞こえてきた。

 何で俺がノエルねえと仲良くすると怒るんだよ。子供か。


「こら、壮太! いつまでもくっつかない! ドントタッチミーだよ!」


 シエルよ、それを言うなら『ドントタッチハー』だろ。何で『ミー』なんだよ。

 俺はシエルの英語の成績が心配になってきたぞ。


「シエルちゃん、一緒にそうちゃんをお仕置きしよっ」


 ちょっと待て! ノエルねえが、とんでもないことを言いだしたのだが。


「えっ、そ、それは……恥ずかしい」


 ですよね。シエルはしなくて良いんだよ。


「でも何か腹立つ」


 そう言って、シエルが迫ってきた。


「お、おい、待て! それはヤバいって!」

「問答無用」

「やめろって! マジで危険なんだよ!」


 むぎゅぎゅぅ~っ!


 俺は姉妹にサンドイッチされてしまった。

 ノエルねえとシエルに挟まれ天にも昇る心地よさだ。


 あああああああぁ! 何してくれてんだぁああ!


 甘々で優しいエルねえと、普段は塩対応なのにふとした瞬間が可愛くて面白いシエル。こんな二人と同居して、俺がどんだけ我慢してるのか知らないんだろ。

 もう全て身を任せて流されちゃったら、どんなに楽なのか。


 いかんいかん! 危うく流されるところだったぜ!


「あらあらぁ♡ 仲が良いのね」


 俺が鋼の心で我慢しているというのに、今度は莉羅りらさんがやってきたのだが。

 ははっ、まさかな。


「ママも混ぜて混ぜてぇ♡ ぎゅぅううううっ」


 そのまさかをするのが莉羅りらさんだ。

 姉妹に混じって抱きついてきたのだが。


「いえ、それはマジで勘弁してください」


 急に冷静になった俺が断ると、莉羅りらさんがへこんだ。


「いいもんいいもん。どうせ私なんてオバサンだし」


 うーむ、この歳のわりにお茶目な人妻をどうするべきか。スキンシップが激しすぎるけど、義母とイチャイチャできるはずもなく。


 それにしても、ノエルねえの密着する癖は母親譲りだな。


「ん? どうしたのかな、そうちゃん」


 そのノエルねえは、悪びれる様子もなく首をかしげている。可愛い。


「くぅううううん…………」


 そしてシエルはといえば……。

 柄にもないイチャイチャ行為をしてしまい、我に返って羞恥に震えていた。






 ――――――――――――――――――――


 これで胸糞悪いヤ〇モクは去った。

 もうヒロインを止めるものは何も無い。

 姫川姉妹、ギャル、思い込み激しい清純少女、ヒロインたちの強烈なアピール合戦が始まる。

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