第10話 マッサージ

 夜、風呂上りに廊下を歩いていると、ノエルねえが部屋から顔を覗かせた。


「そうちゃん、お願い」


 そう言ってノエルねえは手を振る。

 ノエルねえの頼みなら断るわけにはいかないな。俺は吸い寄せられるように部屋に向かった。


「ノエルねえって、うわぁああああ!」


 部屋に入って先ず驚いたのは、ノエルねえの姿が刺激的だからだ。


 ネグリジェと言うのかベビードールと言うのか知らないが、体のラインがクッキリ出る格好をしている。

 ワンピース型のそれは、胸元は大きく開き肩はブラ紐みたいなのだけ。綺麗な鎖骨やら胸元やらわきやらが見えまくっているのだ。


 こんなの健全な若者には目に毒過ぎるだろ。


「どうしたの、そうちゃん?」

「ふ、服を着ろぉお!」

「変なそうちゃん。これ寝巻よ」

「下着は恥ずかしがるのに、肌着は恥ずかしがらないのかぁああ!」


 そんなエッチな寝巻のJKとかどうなんだ。誘ってるのか? それ誘ってるのか?


 何とか説得してTシャツとジャージに着替えさせた。

 てか、私服はクソダサいのに、何で下着だけオシャレなんだよ。


「もうっ、ノエルねえは距離が近いし無防備なんだよ。クラスの男子にもそうなの? 心配になるんだけど」


 俺の問いかけに、ノエルねえはキョトンとした顔をする。


「そんなの、そうちゃんだけに決まってるでしょ。もうっ、お姉ちゃんが他の男子にもしてるって思ってるの」

「えっ、それって……」


 そんなことを言われたら誤解しちゃうだろ。

 それとも俺が男として見られていないのか?

 どうしたものか。


「お、俺も男なんだけど」

「そうちゃんは良いの」

「俺が良くないんだよ。そ、その、我慢できなくなっちゃうと言いますか……」


 かぁああ――


 ノエルねえの顔が赤くなってゆく。

 やっと意味を理解してくれたか。


「えっ、そ、その……もうっ、そうちゃんのエッチ」

「エッチなのはノエルねえの方だろ。それ、狙ってやってんじゃ?」

「ね、狙ってません」


 プリプリ頬を膨らませるノエルねえが可愛らしい。

 もう俺は聞いてみることにした。


「でも、ノエルねえって部屋着はダサジャージなのに、何で下着だけセクシーランジェリーなの?」

「ダサジャージなのは余計だよぉ」


 ダサジャージに反応するノエルねえだ。


「えっと、その、これはお母さんが選んでくれて……」


 どうやらノエルねえの下着は莉羅りらさんの趣味らしい。


「私ってね、中学の頃から胸が大きくなって……。普通のだとサイズが合わなくて」


 顔を赤らめながら話すノエルねえを見ているとゾクゾクする。そんな顔をされると、ついイジワルしたくなっちゃうぞ。


「それでね、お母さんがいつも注文しているお店にオーダーすることになって。それからずっと下着は任せっり切りなのぉ」


 娘にセクシーランジェリーを着せる莉羅さんもエロいが、それを何の疑問もなく俺に見せるノエルねえもエロい。


 しかしデカいな。凄くデカい。


「H……いや、I、Jかな?」

「そんな大きくないからぁ! Gだよ!」

「Gなんだ」

「ううっ、くぅうう~ん」


 ノエルねえが俺の罠にはまりカップサイズを暴露してしまった。両手で顔を隠して恥ずかしがっている。

 そうかGなのか。


「もうっ、そうちゃんのバカぁ! 今の忘れてぇ」


 拗ねてしまったノエルねえだが、俺にはもう一つ言わねばならぬことがある。

 そう、俺が驚いたのは二つあったのだ。


「そういえば、先日片づけたばかりなのに、また部屋が散らかってるけど」

「そ、それはしょうがないんだよ。ほら、勝手に散らかっちゃうと言うか……」


 必死に弁明しようとするノエルねえだが、物は勝手に散らからない。散らかしたのはダサジャージのおねえだ。


「まったく、これじゃ一人暮らしでもしたらどうなるんだよ。ノエルねえの将来が心配になるよ」

「いいもん。一生そうちゃんに面倒見てもらうから」


 おい、それはどういう意味だ?


「一生って、まるでケッコ……」

「はっ! ち、ちがっ、今のはね。その……変な意味じゃなくてね」


 結婚と言いかけた俺の発言で、ノエルねえの顔が真っ赤だ。

 たぶん俺も真っ赤になっていると思う。

 もう話を変えよう。


「そ、それで、何か俺に用があったのでは?」

「そうそう、そうちゃんに肩を揉んで欲しくてぇ」

「Gカップだと肩が凝りそうだよね」

「それは忘れてぇ~」


 ノエルねえのカップサイズは一生忘れられそうにない。もう脳に永久不滅記憶として刻まれたのだ。


 ゴロンゴロン、パタン!


 恥ずかしがっているノエルねえがベッドにゴロンと横になった。

 照れ隠しなのか枕に顔を埋めている。


「はい、そうちゃん。マッサージお願いね」

「へいへい」


 そうは言ったものだが、女の子の体に触るなんてハードルが高いのだが。

 ノエルねえがフレンドリーなので誤解していたが、俺はリアル女子に免疫めんえきが無いのだ。


「えっと、も、揉むよ」

「うん」


 くっ! ジャージなのにエロい。このお姉はどうなっているんだ!


 風呂上がりで湿ったダークブロンドの髪が色っぽい。

 髪をかき上げたうなじは更に色っぽい。

 スリムに見えるのに、出るとこはムチッと出ているのが超絶色っぽい。

 極めつけは、擦り切れて糸がほつれているジャージ尻が超弩級に色っぽい。ダメだこりゃ。


「もうっ、そうちゃん。いつまで待たせるの」


 パタパタパタ!


 待ちくたびれたノエルねえが足をパタパタさせ始めたぞ。


「わ、分かった。揉むから。その洗濯してなさそうなジャージ足をパタつかせるな」

「ちょっとぉ、洗濯してるもん。月一……三か月に一回くらいで」


 それはしていないと言うのでは? 何か臭いそうだぞ。まあ、ノエルねえのなら良い匂いがしそうだけど。


 外では完璧美人なのに、家ではポンコツ姉の将来が心配になるぞ。


 そんなことを考えながら、俺はノエルねえを跨ぐと、美術品のように優美な曲線を描く肩に両手を置いた。


 グイッ、グイッ、グイッ!


「これくらいで良いかな」

「んっ、良い感じ」

「この辺はどう?」

「んっ♡ あっ♡ んぅ♡」

「おい、変な声を出すな」

「だ、出してっ♡ ないっ♡ あんっ♡」

「出してるじゃないかぁああ」


 ただでさえ全てが色っぽいノエルねえなのに、そんな声まで出されたらたまらない。


「もうっ! そうちゃんの手つきがエッチなの!」

「どう見てもノエルねえがエッチだと思う」

「そうちゃんだよ!」

「ノエルねえだろ!」

「そうちゃん!」

「ノエルねえ!」

「うふふふっ」


 何度も言い合いをしていると、何かのツボに入ったのかノエルねえが笑いだしてしまった。


「もう、そうちゃんってば。子供みたい」

「子供っぽいのはお互い様だろ」


 ペチペチ!


 ノエルねえが自分の背中をペチペチする。早く揉めという意味だろう。


「まったく。しょうがないお姉だな」

「うふふっ♡ そうちゃんって優しいよね」

「そうかな?」

「そうだよ……んぁ♡」

「だから変な声を出すな~」



 しばらく無言でマッサージを続けていると、おもむろにノエルねえが沈黙を破った。


「ねえ、シエルちゃんのことお願いね」

「えっ?」

「林間学校……同じ班になったんでしょ」

「うん」


 少し間を開け、ノエルねえ躊躇ためらいながら口を開く。


「シエルちゃんって、ああ見えてとても繊細なの。でも容姿が派手で目立つでしょ」

「はい……」

「前の学校でもね、男子から凄い人気になっちゃって。それでね、色々な人に告白されたりで大変だったのよ。女子にも陰口叩かれて」

「シエルが……」


 何となく想像できる。

 今の学校でも転校初日から男子の注目を集めてたからな。

 きっと……色々大変だったのだろう。男子には告白されまくって、女子からは妬まれて。


 俺が、シエルを……何とかしないとな。


「任せてくれ。俺がシエルを守るから」

「良かった。やっぱ、そうちゃん優しい」


 俺に伝えてホッとしたのか、ノエルねえの体から力が抜けた気がする。


 あれ? もしかして、俺にそれを伝えたくて呼んだのかな?


「ノエルねえ

「んっ♡ あっ♡」

「こらっ! 変な声出すな」


 ぽこっ!


「いたぁ~い」


 お姉がエロいので頭を軽く叩いておいた。

 俺が変な気を起こさないよう我慢しているのに、このダサジャージおねえときたら。

 しょうがないノエルねえだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る