第3話 ラッキースケベはそうじゃないだろ
「ふぅ……上手くいかないな」
ノエル
新しい家族と打ち解けようとしてみたのだが、義姉に柔らかな膨らみを押し付けられ、義妹から冷ややかな目で見下ろされただけである。
姉を変な目で見たいようにと努力しているのに、あんな距離感で密着されたら我慢できなくなっちゃうだろ。
それにシエル……。
どうもシエルの俺を見る目が厳しい気がする。
やっぱり再婚には反対だったのだろうか。
そんな俺の悩みなど吹き飛ばすかのように、
「
ほんわかとした声の方を振り向くと、そこには義母になったばかりの
何かこう、いかにもエッチな漫画に出てきそうな、美人で若い人妻という印象の人だ。
思春期真っ盛りの男子には刺激が強すぎるぞ。
「あっ、大丈夫です、莉羅さん。ありがとうございます」
俺が他人行儀な挨拶をすると、莉羅さんは頬をプクっと膨らませて不満顔になる。
「もうっ! 壮太君ったら、私たちは家族になったのよ。遠慮はやめてよね」
「そ、そうですね。じゃあ、ちょっとお腹すいたかな」
俺の返事で莉羅さんは笑顔になった。とても人妻とは思えない可愛らしさだ。
ついでに話し方はノエル
許してくれそうだがエッチな目で見るのは絶対禁止だ。仮にも母親になる女性だからな。
「ちょっと待っててね。すぐお夕飯を作るから」
「はい、助かります」
ダイニングの椅子に座り、さっき注いだ牛乳を一気飲みする。照れ隠しのように。
莉羅さんは、そんな俺をにこやかな顔で見つめると口を開いた。
「良かったわぁ。娘と仲良くしてくれてるみたいで」
仲良くと聞いてドキッとした。さっきノエル
「そ、そうですかね。ノエル
俺の話を聞いた莉羅さんは、胸の前で両手をギュッと握る。それは何のポーズだ。
「大丈夫よ、壮太君。あの子、シエルは人付き合いが苦手なだけなの。きっとシエルも壮太君と仲良くしたいと思ってるはずよ」
「そうでしょうか?」
「そうよぉ。だって小さな頃は、あんなに仲良かったじゃない」
仲が良かった?
俺とシエルが?
いつの話だ……?
思い出せない。
何で俺は忘れているんだ…………?
「あっ、ごめんなさい。無理に思い出さなくて良いのよ」
顔を上げると、莉羅さんが俺の近くにきて心配そうな表情で見つめていた。
「えっと、どうも昔の記憶が曖昧でして」
「そうよね。大丈夫。ゆっくりで良いからね」
「はい」
「そうだ、壮太君からシエルに話しかけてあげたら?」
「えっ?」
「きっと喜ぶと思うわよ」
喜ぶ? 喜ぶのだろうか?
あのクールで氷の女王みたいな義妹が。
「まあ、考えておきます」
「あとあとぉ、私も気軽に呼んで欲しいわ。愛情を込めてぇ♡」
「はい?」
「そうね。たとえば『リラちゃん♡』とか、『ママぁ♡』とか」
「えっ、嫌です。恥ずかしいし」
ガァアアアアアーン!
「およよよぉ……」
莉羅さんが変な擬音を出しながら沈んでしまった。お茶目な人だ。
◆ ◇ ◆
食事を終えた俺は部屋でネット動画を眺めながらくつろいでいた。
もう毎日の日課だ。
この家は女性三人に俺という家族構成になる。やはり先に風呂に入るのは遠慮してしまう。
義理姉妹と義母が入ってから、ゆっくりと俺が入浴する。これが一番だろう。
ラッキースケベを防止するためにも、少し時間をおいてから入るのが安全だ。
俺は十分に時間が経ったのを確認してから浴室へと向かった。
「ふうっ、やっぱり落ち着くなら風呂だよな。家の中に美少女がウロウロしてると緊張するんだよ……」
少し
だが莉羅さんやノエル
きっと、俺が家で孤立しないように気さくに話しかけているのだ。
そこは感謝しないとな。
ガラガラガラ!
「あっ!」
「えっ?」
脱衣所の扉を開けた俺は固まってしまった。
そこに予期せぬ人が居たからである。
輝くセミロングの
しかも下着は
弾けそうな大きな胸は
待て待て待て待て待て! 何で俺はガン見してるんだ!?
見ちゃダメだ! 見ちゃダメだ! 見ちゃダメだ!
俺が全く動けずにいると、その下着姿の女性が、申し訳なさそうな感じに声を上げる。
「いやぁ~ん♡ 壮太君のエッチぃ♡」
そう、そこに居たのは莉羅さんだった。
何で義姉妹と同居したら義母の風呂を覗いてしまうんだ? ラッキースケベはそうじゃないだろ!
普通はここで姉妹のどちらかを見てしまう展開のはず。
これがラブコメアニメだったら、一般層を置いてけぼりで、一部マニアな層にだけ刺さる作品になってしまうぞ。
とりあえず俺は目を逸らし頭を下げた。
これ以上、この美しい人妻を見ていると本当に間違いを起こしそうだ。
「す、すみません。もうお風呂済ませたかと思ってまして」
「私こそごめんなさいね。ちょっと後片付けをしてて」
「いえ」
「でも壮太君もオバサンの裸なんてイヤよね」
「い、いえ、莉羅さんは若くて、とても……綺麗です……」
「きゃ♡ 壮太君ってお上手ねぇ。このこのぉ」
莉羅さんが肘で俺の脇腹をツンツンしてくる。プリっとした胸の谷間が近い。
止めてくれ。それ以上されると大変なことになってしまう。
案の定、俺の視線に気付いたのか、莉羅さんがからかってきた。
「もう、壮太君ったらぁ♡ 胸がすきなの? おっぱい揉んどく?」
「そういう冗談はやめてください」
「そ、そうよね。壮太君なら良いかなって思っちゃったけど」
「余計にダメです」
「ごめんなさぁい」
いつの間にか立場が入れ替わってしまった。悪乗りした莉羅さんが俺に怒られているのだ。
しかし、積極的に出た莉羅さんだが、実はそれほど余裕もないらしい。
恥ずかしがっているのか、さっきから体をクネクネしているのだ。大事なところを隠しながら。
「あ、あの、壮太君♡ 困るわ♡ 私には
莉羅さんは俺の父親の名を出した。新婚なのに旦那が単身赴任なのは同情する。
しかしこの人妻は欲求不満ではないのか?
いや、冗談だ。
きっと俺を気遣って、わざと明るくエッチな感じにしているのだろう。
きっとそうだ。そうでないと困る。
そんな莉羅さんの夜の生活を心配していると、とんでもないタイミングで事件は起きるのだった。
「お母さん、どうかしたの? 大きな声なんか出して」
義妹のシエルが脱衣所に入ってきたのだ。
莉羅さんが半裸で俺といるのをバッチリ見られてしまった。
「不潔…………」
シエルの鋭くも美しい瞳が、まるでゴミを見るようになっている。
「ちょ、ち、違うんだ……」
「あらあらぁ♡」
何とか説明しようとする俺だが、莉羅さんは体をくねらせて『あらあら』しているだけだ。
と言うか、この母親はノエル
こうして俺は、一日に二度のラッキースケベを経験し、義妹のシエルに嫌われてしまったのだった。
こんなの先が思いやられるぞ。
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