第10話

泣きそうになっていると、誰かがすっと私の二の腕を掴んでいた春馬の手を振りほどいた。



いつの間にか、隣には拓斗が立っていた。



「春馬、その子はダメ」



幼い子供をなだめるような口調で、拓斗が言う。



「その子は、俺の大事な友達だから」



そんな口ぶりでも不思議と嫌みに感じないのは、拓斗の持っている空気感のせいだろう。



いつでも頭上に青空が広がっているような、爽快な笑顔の持ち主。



サラリとしたモカブラウンの前髪も、そんな爽やか好青年の拓斗にはすごく似合っている。



「なんだ、拓斗の知り合いかよ」



春馬は不服そうに言ったものの、席へ戻るのかゆっくりと立ち上がった。



驚きのあまり、私はその場にしゃがみこんだままポカンと二人を見上げていた。



絶対君主の春馬に口答えできるなんて、拓斗って凄過ぎる。



社交的で誰からも好かれるタイプだとは思っていたけど、まさか春馬までもがこんな態度になるなんて思いもよらなかった。



他の人が同じことをしたら、今頃はきっと強制退部になっていただろう。その後の人生にも、何かと弊害があったに違いない。

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