第24話 お出掛けのお誘い

 次の出勤日、執務室へと入ったイレーネは違和感を覚えた。部屋に特段変わったところはないようだが、アンジェロとエミリオの様子が少しおかしい。アンジェロの態度がイレーネにとって不可思議なのはよくあることだが、今日はエミリオもおかしい。いつもはイレーネに対して尊大な態度をとるエミリオだが、この日向けられた視線はいつもよりも穏やかだ。イレーネにエミリオの心情の原因など知りようがないが、エミリオ自身もよくわかっていないのか時おり不機嫌そうに眉を寄せている。


「あぁ、イレーネ。ケガは?」

「もう問題ねーよ。普通に動ける」

「……先日はアンジェロ様を守ってくれてありがとな」

「なんだ、エミリオ。あんたがオレにお礼をいうなんて珍しいじゃねーか」

「うるせー。気はのらねーが、お前がいなきゃやばかったってのは俺にも分かってんだよ」

 イレーネがあからさまに驚いた態度をとると、エミリオはそういってイレーネを睨み付けた。いつも通りの様子に戻ってひと安心だ。

 

「礼はいいよ。仕事だからな。でも、アンジェロと国王陛下にケガがなくてよかったよ。あの国王、慣れてるっぽかったけど、頻繁にあんな事件があるのか?」

 イレーネは先日感じた疑問をアンジェロにぶつけてみた。命を狙われた直後だというのに、ダニエルに動揺した様子はなかった。はじめてでないにしろ、あんな子供が命の危機に瀕したら取り乱してもおかしくない。

「頻繁、というほどではないが、はじめてではないな。あのお方も国内に敵が多いのだ」

「あの年で国王の座についただろ、いいように扱おうと脅しをかける貴族も多いみたいだ。あと、リカルド様を国王に、って声も多いんだよ」

「その、リカルド様ってのは誰なんだ?」

「前代の弟で、ダニエル国王の叔父に当たる人物だ。現在継承権一位だから、ダニエル様が亡くなれば国王の座につくことになる」

「へー、王族ってのも大変なんだな」

 親族すら信用できないなんて、ダニエルの心労は相当なものだろう。あの年でそんな事態に陥るなんて気の毒だが、あのただ者ではないオーラを纏うダニエルのことだ、案外軽く往なしているのかもしれない。あまり深入りすることもないだろうと、イレーネは話題を打ち切った。


「それでだな、イレーネ。君、次の休みは空いているか?」

「空いてるけど、なんで?……まさか、またパーティーとか?」

 そわそわと落ち着かない様子のアンジェロに訪ねられ、イレーネは嫌な予感を感じた。アンジェロはすぐに否定するように首を振ったので、イレーネの予感は杞憂に終わった。

「そうでなくてだな、あの、……よかったら、一緒に出掛けないか?」

「別にいーけど、また、突然だな。何かあったのか?」

 イレーネが承諾したことに安堵したのか、話を続きを聞いていない様子のアンジェロではなく、エミリオの方を向いて訳をきく。エミリオはめんどくさそうに頭を掻いたが、その表情はどこか楽しそうだ。

「えーと、お前、国王からの褒美断っただろ。あれだけ活躍したのに、その報奨がなにもないのは如何なものかってアンジェロ様がいうんだ。俺もそれには同意見だから、2人で考えたんだけど……。アンジェロ様も俺も、お前の好みとかわからねーしさ。いっそのこと、一緒に買いにいけば、ってことになったんだ」

「なるほど……。そんな気にしなくていーのに」

「だめだ。いい働きに正当な報酬を出さなくては、良い雇用関係はなりたたない」

「あんた、意外と頭固いんだな。でも、気持ちは嬉しいよ。今までそんなこといってくれる雇用主いなかったからさ」

 アンジェロたちがイレーネの利益について考えてくれているのが嬉しくて、イレーネの表情が自然に緩んだ。珍しく穏やかなイレーネの笑みをみたアンジェロは顔を赤くして視線を反らせた。エミリオも驚きに目を見開き、視線をそらして鼻を鳴らした。


「でも、オレ、出歩いていーのか?」

 ここに来てから、イレーネに外出は認められていなかった。必要なものはセレナが買ってきてくれるし、休日は必ずといっていいほどエミリオが自室を訪ねてくるので退屈もしないし、困ったことはなかったが。いくら監視の目があるとはいえ、敵国の人間が街を歩いていいのだろうか?

「私が一緒だし、エミリオにも同行してもらうから問題ない。一応、国王の許可も頂いてきた」

「準備万端だな。服装は?メイド服のほうがいいか?」

「いつも通りの休日の服装で構わない。メイド姿で話していては設定上困ったことになる。なに、私が街に出ることは少ないから、一人ぐらい人数が増えていても臨時の護衛にしかみえないだろう」 

「わかった。楽しみにしてるよ」

「仕事の手を抜くんじゃねーぞ」

 イレーネに釘をさしつつも、エミリオは楽しそうだ。こんなに上機嫌なエミリオも珍しい。心酔す上官との外出がさぞ楽しみなのだろう。イレーネもオスカーとルイス以外と私用で外出する機械はほとんどないので、ちょっと楽しみだ。イレーネは『大丈夫だよ』とエミリオにウインクすると、いつも通り掃除を始めた。

 

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