第29話

「リュウは……そんなんじゃない……」


かすれ声を出すヨウの頬を、涙が幾筋も流れては冷たい床に落ちていく。


「あなたなんかに……リュウとの思い出を、汚されたくない……」


「へえ」


ヨウがどんなに泣こうと、声を詰まらせようと、目の前の男は表情ひとつ変えなかった。


「あいにく俺には、汚れた思い出しかないからな。あんたの気持ちは分からない」


ヨウは、力なく自分を見下ろすグエンを見上げた。


蛇のような瞳に、男にしては白い肌。漆黒の髪を今日はオールバックにしている彼は、相変わらず薄闇が似合う。


朦朧とした意識の中で見る彼は、まるでヨウを黄泉の世界へと誘う死神のようだった。


「リュウは……私の生きる支えなの」


だから、たとえ殺されても、あなたにリュウのことは話さない。ヨウは、心の底からそう思った。


するとグエンは、何かを察知したように片眉を上げた。


そして「ははん」と口元に薄ら笑いを浮かべる。


「なるほどな。あんたがガキ過ぎるおかげで、理解できたよ。そのリュウとやらと猿鬼に、何か関係があるんだな」

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