第22話

さっきウェイトレスをしていた、綺麗なお姉さんだった。


お姉さんは体育館から出ると、一目散に外へ向けて走り出した。


細くて白い足が、懸命に地面を蹴っている。


お姉さんは、口元を片手で覆いながら。


どういうわけか……泣いてた。






はじめは、“マカオン”を見てサトシみたいに感動して泣いたんだろうって思った。


だけどお姉さんがすぐ横を通り過ぎた時、俺は直感したんだ。


お姉さんは、声を上げることもなくひたすら涙を流していて。


きっと、すごくすごく悲しいことがあったんだろうって思った。


その姿は、歓喜に満ち溢れた人の群れの中で、ポツンと白く浮いているように思えた。







一体何が、あの綺麗なお姉さんをそんなに悲しませたんだろう。


彼女にとって、ただの見ず知らずの中学生である俺には、その理由など知る由もない。


だけど俺まで悲しい気分になって、胸がぎゅっと苦しくなったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る