コノヨノソコ
第2話
その男たちが訪れたのは夜半過ぎのことだった。
長屋の朽ちかけた戸を蹴り倒し、ズカズカと靴も脱がずに部屋に足を踏み入れると、寝ていたテイの父親の布団を剥ぎ取った。
コホンコホン、と父親はせき込み、わずかな蝋燭の灯りだけが頼りの薄暗い室内に、赤い血を口からまき散らした。
テイの父親は結核を患い、何か月も前から歩くのもやっと、という状態だった。
「やめてください、やめてください! お父ちゃんは、病気なんです!!」
テイは泣きながら男の足にしがみついたが、男はテイの顔に唾を吐きかけると、壁に向けて容赦なく蹴り飛ばした。
その勢いで、蝋燭の灯が音もなく掻き消される。
「やめろだと? ふざけんな。金を返さねえお前の親父が悪いんだろ?」
真っ暗闇で、男は黄ばんだ白目をギロリとテイに向けた。
小柄だが、筋肉質な腕をした男だった。
左頬にはまるで肉を引き裂いたような、消えない傷がある。
その存在を見せつけるかのように赤黒く輝くその傷は、この男が生きて来た世界、そして今身を沈めている世界の残酷さを物語っていた。
その後ろにいる数人の男たちはいずれも相撲取りかと見まがうほどの巨体で、煙草と酒と何かのすえたような匂いを放っていた。
「もう決めたことだ。この親父を売りさばいて、金に変える。遠い異国の地で鞭を打たれ鎖につながれ、のたれ死ぬまで働き続けるんだな」
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