プロローグ

第1話

私の父は、ジョン・ディーコンに憧れてベース弾きになったらしい。



けれど、幼い私にとって、ジョン・ディーコンはただの知らないおじさんに過ぎなかった。



顔も年齢も知らないし、そもそもそんなことには興味もない。



ただ、彼の奏でるベースの音を知ってたっていうだけ。



それでも、彼のベースは幼い私の体の奥深くを揺るがして、そして骨の髄まで虜にした。









だから、中学生になった私がベースを持つようになったのも自然の流れだった。



嬉しい気持ち、哀しい気持ち、悔しい気持ち。



私の感情は、全てベースを通して放たれる。



誰かに聴かせるつもりはなかった。



誰かのために弾こうなんて、思ったこともなかった。









ベースは私の体の一部で、ちっぽけなこの人生の全て。



ただ、それだけのことだった。

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