第69話
「え? え?」
余りに虫の良すぎる話に、一瞬頭がこんがらがる。
だけどそのお兄さんが見せてくれたのは、何度も読み返しても今夜のTHE MACHAONのライブチケットで、しかも整理番号はかなり早い。
「貰って、いいんですか…?」
「うん、俺、いらなくなったから」
「あ、お金払います」
「いいよ、タダで貰ったやつだし」
黒ハットのお兄さんはそう言って笑うと、わたしの掌に「ハイ」とチケットを置いて立ち上がった。
それから一瞬だけライブハウスの方に顔を向ける。
海風に煽られ、帽子からはみ出た薄茶色の髪の毛が揺れていた。
やがてお兄さんはこちらに向き直り、
「じゃあね」
と手を振りその場を去り始めた。
すっかり日の沈んだ海辺の道を、先へ先へと消えて行くお兄さんのスラリとした背中から、わたしはいつまでも目が離せないでいた。
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