第12話

男は少しだけ驚いた顔をしてから、紙袋の中を覗き込んだ。


そこには艶やかな赤い林檎が、3つ入っている。






調子に乗っちゃったかな、とリンファは今更恥ずかしくなった。


いつもは決して、こんなことはしない。


かっこいい男の人が大好きな母親は、少しでも見た目の良い男の人が本を買いに来たらすぐにおまけで林檎をあげたりしているが、リンファは絶対にそんなことはしないでおこう、と思っていた。


実際は、林檎を貰って喜ぶ男の人などいないのだが。


これじゃあ母親と一緒じゃないかと、リンファは自分のしたことを後悔した。






男はしばらく紙袋の中の林檎を見つめていたが、やがてその一つを手に取ると、そっと唇を寄せた。


赤い林檎に男の赤い唇がすり寄る様は、ドキリとするくらい妖艶で美しかった。





男は愛しそうに林檎に口付けると、「ありがとう。」と言って目を細めた。


余りにもドキドキとしているから、リンファは見とれたまま何も答えれない。






男は優しい笑みをリンファに向けたまま、くるりと体を翻し行ってしまった。


夕日が、男の影を地面に伸ばす。






リンファは頬を染めたまま、しばらくそこを動けなかった。


それが、リンファの初恋の相手との出逢いだった。

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