ヲガミサマ

影神

黒絵馬



『オガミサマ』



この名前を気軽に口にしては、いけない。



ある地方の山にある通称


"呪い神社"


と呼ばれているその場所は。


怨みを綴った絵馬で溢れている。



境内には社務所は無いが。


絵馬はそこに沢山あった。



最初は何か分からなかった。


絵馬で"そこ"が異様に膨らんでいた。


真っ黒な塊。


決して境内が木々で明かりが遮られている訳ではない。


絵馬自体が真っ黒なのだ。


珍しい絵馬だ。


絵も描いてなければ。


柄も神社名も印されておらず。


ただ。真っ黒だった。



社務所が無いのに何処で絵馬を買うのか。


ネットを探しても何処にも見当たらないが。


近くのたばこ屋で買えるという事を地元の人に聞いた。


だが。皆が口々にこう言った。


「あそこには、行かない方がいい。」


たばこ屋で、俺が絵馬を買う時にも言われた。


「あんた。そんなに嫌な事されたのかい??」


お金を渡す時におばあさんに言われた。


「ええ。」


受け取った絵馬は深い底の様に真っ黒く。


その絵馬に触れた途端。寒気がした。


追い打ちを掛けるかのようにおばあさんはこう言った。



『ひとをのろわばあなふたつ』



それにかいたら、


"もう二度と、戻れないよ?"



俺は唾を飲み込み、静かに頷いた。


おばあさん「手を出して」


するとおばあさんは彫刻刀の様なモノを、


俺の手に乗せた。


「人に見られない所で。


その絵馬に怨みを彫るんだ。


手は、怪我しないように。


終わったら帰りにでもこの箱に入れといておくれ。」


カウンターの前には木箱があった。


「はい。ありがとうございます。」


おばあさん「それと。。


決して、


"死にますように"


とかは彫らないんだよ?」


「え、?」


しようとした事を見透かされて驚いた。


おばあさん「


【死】



なんてそんな簡単なモノで片付けられる呪いなら。


それには彫らない方がいい。


死にたくなる様な事が起きて。


それでも死ねない。


死にたくて。死にたくて。


それでも死ねない生を。


『生地獄』


ってやつを与えてやるのがソレさ。」


手に握った彫刻刀の肌触りを強く感じる程。


俺は力いっぱい握った。



ずっとこういうのを待っていた。


俺が求めていたモノはこれだった。



世間で【呪い】と呼ばれるモノは、


何れも効果的な成果は出なかった。


俺も最初は"死"を望み。願った。


しかし、それじゃ駄目な事をあの時知った。


ユル過ぎた。


考えが単純過ぎた。


あまい。


階段を上り、心臓は高鳴った。



簡単に死なんて迎えさせない。


「殺して下さい。


死なせて下さい。」


そう涙し。懇願しても尚。


神に縋り、それでも尚。


アイツに死が訪れる事等無い。



カランカラン、カラン。


パシッ、パシッ、パシ。



鳥肌と、寒気。


禍々しいその場所に加わる俺のオモイ。



深い深い闇の中に。またひとつ。


新たな呪いが、堕とされた。










































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ヲガミサマ 影神 @kagegami

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