クラウン・エッジ

加賀瀬 才

序章 新時代は冠と共に Clown with a "Qrown"

1 ー後悔ー

 なんでだ?

 どうしてこうなった?

 だって、こんなはずじゃなかっただろ。

 くるくると回る視界。

 色褪せた世界に乱舞する青のかけら。

 受け入れたくなかった。

 でも、受け入れるしかなかった。

 その鮮烈な輝きこそ、これが現実であるという証明なのだから。

 見知った少女に名前を呼ばれている。

 でも、その叫び声に応える余裕は最早残っていない。

 もう、何もかも手遅れだ。

 いつの間にか手足の感覚はなくなっていた。

 いや違う。全てが一つになったのだ。

 そんな変わり果てた意識の輪郭をなぞりながら、おのずと全てを察してしまう。

 ああそうか……俺はずっと――。


 魔法が、解ける。


 これは、ヒーローになり損ねた一人の少年の物語である。


 

    ◆◆◆



 九年前、一人の男がこの世界に魔法をかけた。

 勿論これは単なる比喩であり、実際は現実世界での出来事だ。

 彼はただの科学者であって伝説の大魔法使いではなかったし、物理法則が支配するこの世界に魔力は溢れていなかったのだから。

 それでも、そんな表現がぴったりなほどの偉業だったのだ。

 後にその名が人類史に刻まれることになる彼は、当時の社会にこう呼びかけた。


「汝の意志を冠に示せ。それが汝の力とならん」


 それは人類にとっての福音であり、新時代の幕開けの合図であった――。


 二〇四五年、現在。

 神経拡張技術〈応冠〉によって世界は一変した。

 それは、誰もが天才になれる世界。

 それは、誰もがアスリートになれる世界。

 それは、誰もがマルチリンガルになれる世界。

 そして、誰もがなりたい自分になれる世界。

 応冠導入者は〈ハイアーズ〉と呼ばれ、その頭上には特殊な紋様が浮かび上がる。

 それは意志の具現であり、己に宿る力の証明。


 ここに『冠の時代』が到来した。

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