転生令嬢VS転生令嬢 お嬢サ☆マウントな三本勝負! 〜優雅なお茶会? 婚約破棄呪術合戦? 豪華客船レース? 三本ともマウントを取って完全勝利してみせますわ!〜

ジョイ晴

プロローグ

転生令嬢の一人語り


( 取りたい。取りたくて仕方がないわ。マウントを取りたーい☆ )


 皆様、ごきげんよう。

 わたくし、サーシャ・アーゼリオと申します。


 失礼。名乗るまでもございませんでしたわね。

 ご存じに決まっていますもの。


 アーゼリオ家と言えば王族に連なる名家。

 その令嬢であるわたくしは常に注目の的。

 社交界に行けば挨拶の長蛇の列。

 街を歩くだけで人々が振り返ってしまいます。


 あら? よく考えてみると、わたくしの顔までは知らない下々しもじもの方々も多いはずですわ。


 ということは、名家の血筋がかもし出す高貴な雰囲気に惹かれて振り返ってしまうということなのかしら?


 それともわたくしの見目みめうるわしくて、つい?

 ふふ。冗談ですわ。


 いくらわたくしが隣国の王子であるアルバート様の心を射止めたとは申しましても、容姿など人が持つ魅力のほんのひと欠片かけらに過ぎませんもの。


 お似合いの美男美女だなどと市井しせいの方々は噂をなさっていますけど、表面ばかりにとらわれている浅い方々だこと。生まれの差は隠せませんわね。


 アルバート様がわたくしを婚約者に選んでくださった理由は――。

 名門としての気品。あふれる知性と教養。心の豊かさ。

 そういったわたくしの内面の魅力に抗うことができなかったからではないかしら。


 さて。申し上げました通り、わたくしサーシャはアルバート様と婚約中でございます。


 正式に結婚とあいなれば、我が国と隣国の結びつきは強まり、それぞれの国の国益にもつながることでしょう。


 しかしながら、その逆もしかり。

 歴史を紐解ひもとけば、傾国けいこくの美女の例は枚挙まいきょにいとまがございませんもの。


 アルバート様をとりこにしてしまったわたくしの魅力は、二ヶ国の命運を左右しかねない。


 持つ者には責任が伴うことを常に肝にめいじておかねばなりません。楽ではありませんわね。

 

 何気ないその日暮らしを送っていらっしゃる凡百ぼんびゃくの方々がうらやましいですわ。

 

 ――クス。

 

 

 ときに皆様、異世界転生ってご存じ?


 元とは異なる世界の、おもに別人へと生まれ変わってしまうことでございまして。


 そんなことがあるはずないと思われるでしょうけど、本当にありますのよ。


 その証拠に、わたくし自身が異世界転生者なのですから。


 わたくし、元の世界ではニホンという国で生まれ育ちましたの。


 転生する直前は大学に通っておりましたわ。


 大学というのはニホンの最高学府のことでございますが、学力に応じてピンからキリまでありますの。


 わたくしが通っていた具体的な大学名は伏せますが、レベル分けでは一番の『エフラン』に該当する名門校でしたわね。


 凄い? やめて下さいまし。面映おもはゆいですわ。


( Fランの意味、バレてないわよね? まあ、ある意味では一番というのは嘘じゃないし )


 コホン。

 凄いと申されましても、入った大学で全てが決まるものではありませんの。


 こころざし高く勉学に励むことができるかどうか。

 一生の宝物となるお友達を得られるかどうか。

 そして青春と呼ぶ時期に恋人に巡り会えるかどうかも重要ではないかしら。


 何事も、最後は本人次第――。

 あら? わたくしがどうだったのか気になりまして?


 口幅くちはばったくはありますが、勤勉家の才女とほまれ高かったのみならず、たくさんのお友達に囲まれて楽しい学生生活を満喫しておりましたわ。


 ふふ。恋人がいたかどうかは秘密ですけれど、元の世界の言葉でリアジュウだったとだけ言っておきますわね。


 誰もが夢に描くような『きゃぱすらいふ』を送っていたわたくしではありますが、卒業を迎えることは叶いませんでしたの。


 不遇の死を迎えて、異世界転生してしまったがゆえに――。


 なぜ大学の全生徒が、ニホン全土が、全ベイが、転生元の世界中が涙にくれるような悲劇が起こってしまったのか。


 順を追ってお話し致しますわね。


 その大学には、わたくしとは正反対な女子生徒がおりましたの。

 学生の本分である学業をおろそかにしている上に、お友達や恋人もいらっしゃらない可哀そうなお方が。


 情け深いわたくしはときどき話し掛けてあげていたのですけれど。はあ。


 その方の口から出てくるのは嫌味な自慢話と、人のことをさりげなくさげすむようなことばかり。

 ご自分の優位性を相手や周囲に示したいがためにそういうことをおっしゃるのですわ。


 わたくしの故郷では「マウントを取る」と言うのですけれど、そんなことばかりなさっている方って、人間として恥ずかしいって思いませんこと?


( 皆様から『お前が言うな』という声が聞こえたような? 気のせい気のせい )


 コホン。

 とにかく――。


 わたくしはその方に話し掛けてあげているときに、不幸にも落雷に襲われてしまったんですの。

 哀れな方に慈愛を持って接してあげていたにもかかわらず、神様はなんと残酷な仕打ちをなさるのでしょう。


( いつも通りマウントの取り合いをやっていたら、いつのまにか天気が悪くなってて雷が直撃とかありえないっての。

 大人しくマウントを取らせなかったあいつも、ついでに神の野郎も、できることならぶッコロ――。

 あら? もしかして声に出てた? )


 おほほ。なんでもありませんのよ。


 とにもかくにも、落雷によって命を落としてしまったわたくしは、気が付くと異世界転生してサーシャになっていたという訳でございますの。


 さすがのわたくしも、最初の頃はずいぶんと戸惑いましたわ。

 

 別人になってしまっただけでなく、愛する家族や友人たちには会えなくなってしまった上に、生活様式や文明が随分と違う世界に来てしまったんですもの。


 しかしながら、数か月経った今では運命を受け入れておりますわ。

 こちらの世界の暮らしも悪くありませんもの。


 まず、サーシャが転生前のわたくしと同じ年齢だったのは幸いでしたわ。

 そして教養に溢れた才女で人格者である点も同じ。


 サーシャのお父様やお母様が優しく尊敬に値するお方だったことも幸運でしたわね。


 世界の様相も素敵。


 機械文明に染まっておらず、空気や景色はとても綺麗。

 時計も普及していないので、せわしなく時間に追われることも少ない。

 何より、『すまほ』という機械にコントロールされた生活を送らなくて済みますもの。


( いやー。SNSでリア充アピールしなくていいのホント楽だわ。


 元の世界では彼氏どころか友達もいなくて、せめてSNSだけでもマウントを取るためにフェイク盛り込むのに必死で、大学の勉強どころじゃなかったもの。


 裏業者からダミーのフォロワー買うためにバイトもかなりやってたし。

 親の仕送り少なかったから。


 けどこっちの世界では父親は名族で大金持ち。

 豪邸に住めて高級料理三食昼寝付き。

 家事は全部メイドがやってくれるし。

 親に気をつかってみんなが低姿勢なのもグッド。

 美人の母親に似てサーシャは見た目もいいし。

 親ガチャSランク、きかなきかな。


 しかも転生したら婚約者がいて、隣国のイケメン王子をゲット済み♪


 イヤッホー! ハイヤー! ガ―ハッハッハ!


 転生前の私がポンコツだったのも、婚約者にプロポーズされたのは元のサーシャっていうもの、この話を聞いている皆様にはバレてないわよね~。


 令嬢とはかけ離れた素の自分が出ないようにも気を付けなくちゃ。 )


 コホン。

 何か聞こえまして?

 うふふ。小鳥たちのさえずり声ではないかしら。

 お天気もいいですわ。


 はあ。でも実は、わたくしの心はくもっていますの。

 親ガチャSランク、もとい、こちらの世界のご両親を尊敬申し上げてはいるのですが、お節介が過ぎて困っていることがございまして。


 このごろお母様が、ご友人のご令嬢とわたくしをたびたび会わせようとなさるの。

 同じ年頃の娘、しかも婚約の決まった者同士なのだから、きっと話も弾むでしょうって。


 ところが楽しいおしゃべりという訳には参りませんのよ。


 なぜかというと、その方がことあるごとにマウントを取ろうとする実に困ったお人でして。


 元いた世界のあの女子生徒に性格がそっくり。


 できることなら会いたくはないのですけれど、親同士の付き合いも絡んでいるのでブッチするわけにもいきませんの。


 これからそのお方が我が家へとやってきて二人でお茶会ということになっているのですけれど、気が重いですわ。はあ。


 あら。メイドが呼びに来ましたわ。

 そう。あの方がいらっしゃったのね。


 確実にマウントの取り合いになるわ。

 でも負けない。


 わたくしが天下の者たちにマウントを取るのは許しても、天下の者たちがわたくしにマウントを取るのは許せなくてよ!


 あ、今のは確実に声に出てたわ。

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