疾風の兄弟馬
「立派な体躯な馬だな?」
「そうですね。私の相棒ですよ!」
私とリズは今、愛馬に乗り疾走している。
この馬は暁君がガチャで当てた疾風号の兄弟馬だ。確か疾風号は護衛の小雪ちゃんが乗ってたのだっけ?
"あぁ〜!ワテはなんて幸せな馬でがんすか!?人間の女性2人を乗せて・・・はぁ〜!!恍惚!!"
ちょっと変態なところがあるが体躯は大きく脚も速い。ちなみに名前は天翔号だ。名前負け甚だしいと言えば失礼だけど、陸を走る馬としてはゲーム内でも上位に入る馬だった。
一応こんな馬だがゲーム内ではバトルホースという戦う馬に区分されるのだが・・・
"無視ですか!?はぁ〜・・・それはそれでソソラレルでがんす!!"
"少し静かにして!この遠矢さんは馬と話せるなんて分かってないのだから!"
"そういうことですか!かしこまり〜♪"
なんか久々にインベントリーから出してあげたけど負けた気がするのは気のせいだろうか?
パカラ パカラ パカラ パカラ
遠矢さんの馬は木曽馬には見えないけど普通の馬だ。多分大陸から輸入品で馬が持ってこられたのかな?それから交配してる感じかな?
そうこう走っているとすぐに目的地まですぐに到着した。実はスパイバードカメラを目印に走っていたからほぼ一直線で到着したわけだ。
草木はぼうぼうに生えている。なんならジャングルみたいな場所だ。ご飯とかどうしてるのだろう?一応、家と呼べるかは微妙だけど家の横に申し訳程度の畑はあるけど・・・。
「お武家様、本日はどのような用向きでしょうか!?」
「苦しゅうない!この先にある飯野の城は義弘様が座す城だが、この近辺の地はこの者が治るようになったのだ」
「はぁ〜・・」
イマイチ分かってない感じかな?そもそも遠矢さんが苦しゅうないとか言うのがいけないのよ。もっと身近に感じるように接さないと距離が縮まらないじゃない。
「おはようございます。如月三左衛門と申します。私がこの地を治るようになりましたので挨拶に参りました。何かお困りの事とかございませんか?」
正直見た限りお困り事ばかりのように思う。痩せこけて元気もあまりない。義弘さんは何で放置していたのだろう?
「いえ。ここに住まわせていただいているだけで何も不自由はございません。大隅の地より殿の御厚意により移住させられまして感無量にございます」
私は訳が分からず遠矢さんに聞いてみた。すると帰ってきた答えが・・・口減しだ。
薩摩や大隅方面では米が中々育たず下々の民はひもじい思いをしてきたそうな。琉球との貿易、明との貿易などで物は溢れ返っているが食べ物は厳しいらしい。
そして、義弘さんがそういう者を引き取りこの手付かずの三の丸城下に住まわせてあげていると。
だがこの事が大々的に知れ渡れば難民が殺到してしまうため、義弘さんもそこまで余裕があるわけではなく見える範囲は助けるようにしていると。
下々の食料事情は知らなかったけどこれは聞くまでもなくかなり酷いようね。
「艶?インベントリーの権限を譲渡したからこの方達に即効性の栄養のある物と当面の食糧を渡してあげてくれる?」
「はい。畏まりました」
艶に権限を渡して、即座に診断してもらう。早い話、私が昨日飲んだ栄養ドリンクを飲んで貰えば早いけどそれこそ話が広まれば人が殺到してしまうわよね。しかも元々口減しの人達が違う地で元気に暮らしていると知られれば大変だよね。
艶がチョイスしたのがやはりお米だ。そして、トウモロコシ、うるち米の苗、イチゴの苗だ。
「美幸様?例の肥料を渡してもよろしくて?」
「あの【金色のニワトリの鶏糞】の事かな?」
「はい。あれを渡せば明日にはこの小さな畑一面に稔ると思いますけど?」
なんだか話し方が気になるな。まあ我慢だ。
金色のニワトリの鶏糞とは成長促進され作物などに撒くだけで12時間後には収穫可能となるある意味チートなアイテムだ。
ちなみにゲームではランダムに湧く金色のニワトリを捕獲して、そのニワトリを飼育していると24時間に1回、1袋(50キロ)の肥料がインベントリーに送られる仕組みだった。合計5袋貰うと・・・まぁゲーム内時間で5日過ぎると突然いなくなる金色のニワトリだ。
この世界に居るかは分からないが居るならば積極的に捕獲したいと思う。
「遠慮なく渡してあげなさい」
「はっ。お爺さま?お婆さま?私は艶。これの使い方を教えてさしあげますわよ!これは………」
「ま〜た変わった物を出したのだな?あれはなんなのだ?」
「あれは作物の成長を早くさせる肥料ですよ。遠矢様も明日には驚く事になると思いますよ」
「そうか。それは楽しみだな」
遠矢さんも、だいぶ私に慣れてきたように思う。あまり驚く事が少なくなってきた。私とすれば面白くない。
それから1日中各地を回り、スパイバードカメラで寄ってないところがない事を確認して帰る事にする。
どこの家もだいたい老人の人達ばかりだった。なんであんなにみんなが離れて住んでいるのか分からなかったが、多分自分の事を知られたくないから離れているのだと思う。
城から3日に一度、最低限ではあるが食糧などを持って行ったりしてるそうな。戦も強いし弱者も見捨てないって義弘さんは本当に聖人なのではと思ってしまう。
帰りながらも私はこの草木を刈り取りどこにどういう風な作物を植えようかメモしながら帰った。
インベントリーに入っている種や苗はかなりある。各地に植えて、その後はそれから株分けして増やしていけばいい。まずは腹持ちの良い栄養豊富な芋類だ。
もう少しすれば日本に入ってはくるとは思うけど少し時代を先取りしよう。土壌を気にしなくても仮に私が薩摩から居なくなっても芋は勝手に育ってくれるくらい強い。
「今日は色々回ったな!さ〜て!俺も家に帰るか!おっ!そう言えば俺の嫁も如月に会いたいと言っていたぞ?」
「え?遠矢様って御結婚されていたのですか!?」
「なんだ!?さては俺に惚れたか!?」
「いやそれはないです。御結婚されてるとすれば落ち着きがないなと思ったまでです」
「チッ。少しは世辞の一つくらい言いやがれ!妻は、千というのだができた妻なのだ。近々紹介してもいいか?」
「どうぞ!どうぞ!なんなら私の方から挨拶に伺いますよ!」
「それはいかん!仮にも家老に取り立てられるくらいの身分なのだぞ?こちらから出向く。じゃあな!!」
千さんという人か。遠矢さんの奥さんとはこれまた大変そうだ。
「美幸様?」
「うん?艶?どうしたの?」
「いえ、真白に言って開拓団を募集してさしあげましょうか?」
「なんで真白の許可を?」
「ミスリル鋼のノコギリや斧を作ってもらい、開拓団に持たせて作業させれば効率が良いかと思いました」
そりゃミスリル鋼を使えばプリンのように木を切れるとは思うけど・・・暁君に怒られないかな!?まぁ大丈夫でしょ!
「オッケー!艶に任せるよ!開拓団の報酬は永楽銭と昼ご飯、夜ご飯でどうかな?集まると思う?」
「それで集まらなければあの遠矢様にでも言っておけば良いのじゃなくて?」
なんでこんなに一々上から目線なのだろう?そしてなんで遠矢さんなのかな?
「先にシャワーでも浴びて待っててくれる?私は加治木の海に幽霊船を出しておくよ。カモフラージュネット掛けておけば大丈夫でしょ?」
「そうですね。ですが先にこちらのことを終わらせるのじゃなくて?」
「そうだけど私は先に世界樹の涙を作っておきたいの。いつ何が起こるか分からないしね。それに尾張も見てみたい」
「暁という男の事ですか?」
「本人の前でそんな言い方すると悲しむと思うよ?まぁちょっと行ってくるよ!」
再び天翔に跨り疾走する。もう暗くなりはじめた時だ。領民の往来もまばらになっている。
加治木館を通り越し、すぐに海が見える。人が居ない事を確認して砂浜に幽霊船を出す。
バサァァァァァーーーーーン
「本当に見れば見るほど壊れた船よね〜。どこの修羅場潜り抜けてきたの!?って初見では思うよね〜。天翔はどう思う?」
「今は三左衛門様と2人・・・デュフフフフフ!ワテに船の事なぞ分かるはずもないです!そんな事よりツベを!ツベを叩いていただきたく候!」
「はぁ!?もうこんなところでも変態馬とかやめてよね!?せっかく誰も居ないから喋り掛けたのに話すんじゃなかった」
「そんな事言わんでくだせぇ〜!さぁ!ほら!」
天翔がそう言ってお尻を私の方に向けてきた。仕方なく優しく撫でてあげると、急に砂浜横のハマウドの仲間だろうか?私の身長より高い草むらの中から数人の男の人と女性が現れた。
「そこで何をしているのカ?」
カタコト!?日本人じゃない!?
「リン頭領が聞いてイル!コタエルノダ!」
リン頭領?誰だ!?めんどくさい。こんな時こそ天翔の出番なんだけど・・・
"三左衛門様!ワテに構わず殺っちゃってください!遠慮はいらんでがんすよ!"
バトルホースが聞いて呆れる。
「はぁ〜。今日は疲れたと言うのに。まあ艶が居なくてよかったね?」
「は?ナニヲイッテイル?」
相手は短刀を抜いていたため私は遠慮なく【クレオパトラ剣】を取り出し抜いた。
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