第7話 ルイーゼ① 一代騎士の娘

 ボクは一代騎士の一人娘としてこの国に産まれた。

 一代騎士なんて土地も持っていない、名ばかりの貴族でしかない。

そんな男の一人娘なんて、何か手柄を立てなければただの町娘になってしまう。

 ボクに出来ることなんて精々ちょっと字が読める事くらいで、コネも無い一代騎士の娘じゃ都市で一人分の生活費を稼ぐことは殆ど不可能に近い。


 かといって男受けのしない貧相なこの身体じゃまともな男の人は結婚してくれないし、比較的“まとも“な夜のお店で雇ってもらう事もまあ無理だと思う。

 

 このままただ過ごしていたら、まっているのは“まともじゃない“夜の店で使いつぶされる位しかないだろう。

 この国は、そんなに甘くないんだ。


 だから、ボクは賭けに出た。

 子供のころからちょっとずつ溜めて稼いで溜めてきたお金を15歳になった今日、今後のためにすべて使う。

 そのためにボクは、お酒も飲めないのに酒場までやってきていた。

 

周りにはまさに荒くれものと言った大人の男たちがいっぱいいる。

ボクの事を馬鹿にしたような目で見て来る奴らもたくさん。

 でも、気にしない。 

 今日はボクの人生を変える日にするんだ!


 よ、よし。

 話しかけるぞ……。

 カウンターで怖い顔をしてるあの人がここのマスターだよね……。


「マスター、人を雇いたいんだけど」

「……あ“?」


 こ、怖いっ。

 すっごい低い声だし、睨みつけて来るし……。

 ボク、一応客なんだけど……。


「人を雇いたいんだ!」

「……なんでだ?」

「え?」

「なんの目的で雇うのか、それもわからず紹介できるわけないだろ」


 うぅ……。

 た、確かにそうだけど。

 そんなに睨みつけなくてもいいのに……!


「へ、兵士として雇いたいんです!」

「はぁ?」


 そう、ボクは今日ここに兵を雇いに来てる。

 父さんも一代騎士として身を立てたんだ、僕もそうなりたい。

 というか、それ以外に道が無い。

 だから、一代騎士になるために何か手柄がなくちゃいけない。


 そのためには、兵士が必要なんだ。


「今度近くで山賊狩りをやるでしょ? その部隊に志願したいんだ」

「そのために、嬢ちゃんが人を雇うって? なんでそんなことするんだ」

「そうしないと、生きていけないから。ボクはこれでも騎士の娘なんだ!」


 父さんにも、その同僚にも、上司にだって、ボクはずっと軍人の才能があるって言われてきた。

 チェスでだって誰にも負けたことないし、最低限の剣術も習った。

 この道しか、ボクはまともに生きていけない。


「……予算は?」

「銀貨3枚」

「じゃあ、精々2人だな」


 2人……。

 ボクを入れても経った3人。

 少なすぎるけど、それでも……。


「わかった、なるべく強そうな人をお願い」

「ちょっと待ってな」


 よかった、これでどうにかなるかも……。

 山賊狩りでそれなりに活躍出来たら、騎士団に入ろう。

 お父さんも一代騎士だし、きっとなれる、と思う。

 ……多分。


 暫くカウンターで待ってるとマスターが二人の男女を連れてきた。

 一人はすっごく強そうな女の人。

 もう一人は多分ボクと同じ15歳くらいの男の子。

 ……あんまり強くは無さそう、かな?


「おい、連れてきたぞ」

「あ、ありがとう!」


 マスターにお礼を言って席から立ち上がる。

 二人と比べて身長が低いから、なんか威厳が……。


「え、えっと……。もうマスターから話は聞いてる?」

「ええ、兵士として雇いたいとか」

「そうなんだよ、山賊狩りに参加したいんだ」


 そう言いながらカウンターを離れてテーブルのある席に移動する。

 出来るだけ落ち着けるところで話したい。

マスターにはビールを持ってくるように伝えてあるから、席に座っても怒られないと思う。


「山賊狩りねえ、なんでまた?」

「父さんが一代騎士なんだ。だから、ボクも一代騎士になりたい……というか、ならないとまともに食べていけないんだよ」

「ああ、まあ確かに……」


 一代騎士の娘なんて多分この街でも最低レベルで将来が絶望的だ。

 村民なら農地があるし、町民ならどこかしら仕事の伝手がある。

 でも、一代騎士にはそれがない。

 庶民でも貴族でもない悲しい人種なんだよね……。


「だからなんとしても手柄を立てたいんだ」

「切実だねえ……」

 

 そう言って男の子はため息をつく。


「二人で銀貨三枚。お願いできないかな?」

「いいけど、山賊狩りじゃあ相当手柄を立てないと一代騎士に取り立ててもらうのは難しくない?」

「父さんの上司の人が手柄を立てたら口をきいてくれるって言ってたの」

「そうなんだ……ん? 父親の上司が?」


 男の子が怪訝そうな顔をする。

 どうかしたのかな?


「そうだけど……」

「聞き忘れてたんだけど、君の名前は?」

「え? ルイーゼ・クネフ、だけど……」

「ええ!?」


 え、なに??

 なんかいきなり目を見開いてるけど……。


「どうかしたの?」

「い、いや……。わかった、とりあえずその依頼受けるよ」

「え、ほんと!?」


 やった!

 なんで急にOKしてくれたのかわかんないけど、とりあえずこれでボクも山賊狩りに参加できる!


「あ、そっちの女の人も?」

「……わたしは、フィルが行くならどこにでも行く」

「フィル?」


 初めて女の人が口を開いた。

 フィルっていうのは、この男の子の事かな?

 うーん、二人は恋人とかなのかな?


「ああごめん、俺はフィル・クーリッヒって言うんだ。で、こっちの子がリゼ」

「そうなんだ! よろしくね」

「ああ、よろしく」

「……よろしく」


 二人に向かって手を差し出して握手をする。

 たった二人だけど、ボクの大事な兵士。

 なんとしても、手柄を立てないと。











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