第3話 妻の秘密を知ってしまった夫 ③

 目の腫れも抑えられ、妻も落ち着きを取り戻してくれた。


 床屋さんでも、蒸しタオルを顔に被せてもらうと気持ちいいし、ホッとするよね~。俺自身もホッとしたことで、本題に入る前に7回目の再生を停めてから、妻に向き直った。


 そして、このDVDの出所、昔からの違和感の正体などを説明していく。

 妻は俺の説明を聞いていくうちに、ドンドン顔を真っ赤にして…。恥ずかしがっていたようだ。精通云々はいらなかったな、反省だ。


 俺は全てを話し終えると、今度は妻になんで離婚するなんて言い出したのかを訪ねる。妻は声を小さくして、ゆっくり話してくれた。


 自分が幼少の頃、子役の事務所に通っていたこと。

 引っ込み思案だったのを改善するために、親御さんが連れて行ってくれて、そこの子たちと仲良くなったりしたことで、明るくなれたこと。

 演劇やCMなども出たが、あまりしっくりこなかったこと。

 区切りとして辞める前に一本だけ、イメージビデオを撮りたいと言うオファーを受けたこと。

 予想以上に人気が出て売り上げが伸びたが、キッパリと辞めた。けれど、追っかけやらなにやらの影響で恐い思いをし、髪型も変え元の引っ込み思案に戻ってしまったこと。

 俺とつき合ってる時に言おうとしたけど、恐くて言えなかったこと。


「あなたに知られたら、きっと軽蔑されて…」

「しないしない…全然しないから」


 まぁAV出てたら…、それでもしないか。俺が妻になんだから、仕方ない。

 せっかくだからと、色々質問してみた。


「髪型変えた理由は分かったけど、キミ自身は短髪の方が好きなの?」

「どちらでも。あなたが好きだって言ってくれる、自慢の髪ですから」


 おぉ、惚気のろけてくるやんけ…俺の妻だけどな!


「引っ込み思案のキミと、明るいキミはどっちが本当のキミなんだい?」

「どっちも…でしょうか。あなたが望むなら、どちらでも…」

「じゃあ、キミが過ごしやすい方で。窮屈な思いはさせたくないから」

「ありがとうございます、あなた」 


 ん~好きだ。

 他には…あっ、一番大事なことが。


「このDVDは取っておきたいんだけど…いい?」

「恥ずかしいですけど…」


 妻は、こくりと頷いてくれた。拳に力が入る、良かった…家宝にしよう。絶対に!


「あとは、離婚するなんて二度と言わないこと。俺、死んじゃうから」 

「ごめんなさい。でも離婚事由になったりってネットで…」

「ああいうのは裁判だの警察だの離婚だの、生活トラブルにあったことは一度もない、自分内判断基準しかない人の落書きだから、鵜呑みにしないこと」


 妻は神妙に頷いて、俺を見る。


「私と結婚してくれて、ありがとう。あなた、愛しています」

「俺の方こそ、ありがとう。愛してる」


(俺の初恋の女の子だったなんて、ロマンチックすぎるよ)


 妻は嬉しそうに頬を染める。

 ほらね…やっぱり。今の妻の顔を見れば、一発で見抜けたよ。

 だって、外では硬い表情が多い妻だけど、

 

 今、目の前にいる妻の顔は、初恋の女の子とピッタリと重なる。

 あの時よりも成長した、とびっきりかわいい最高の笑顔を…俺だけに向けてな!

 


 *



 その夜


 俺は唸っていた。苦しんでいるわけではない。幸せな唸り声だ。何言ってんだろうな。とりあえず、夫婦の危機は過ぎ去った。俺の宝物も、無事に事なきを得た。


 なら、なぜ唸っていたのか。


 AVよりもイメージビデオのほうが興奮できそうだと、

 若いときの妻の体をじっくり観られるし、いや今も十分若いけど。


 NTR趣味はないが、カメラ外でスタッフとヤってたんじゃないか、という下種い妄想でバッキバキになっている。何がとは言わない。俺は紳士だから。


 素人ものだったり、やはり本職のAVだったりしたらショックは受けるかもしれないが、時間停止物で時間停止させられて無理やりやられたのなら、やむなしと考えるだろう。何を言ってるか分からない人は、無垢なままでいて欲しい。


 つまり最終的に何を言いたいかというと、このDVDでスルのはやぶさかではないけれど、正直かなりの罪悪感と今の妻が最高なので、やっぱりやめようと思ったところで…閃いてしまった。


 あぁ、みんなの想像通りだ。


 でも俺は、恥ずかしくなんてないぞ。妻に恥ずかしい思いはさせてしまうかもしれないけど。そんな俺の益体もない思考を遮るように、妻がバスタオルを羽織って俺の元にやってきてくれた。


「ほ、ほんとうにしなきゃ…だめ?ですか」

「だめです」

「そ、即答…わかりました。女は度胸」


 覚悟を決めた妻の目には、いったい何が宿っているのか。

ばッと羽織っていたタオルを放り投げると、妻の身体には窮屈すぎる競泳水着が!

 

 そして!

 

「アイ、2〇歳!あなたと一緒に、夏の海で大人になりたいな♡」

「うお…キッツ❤(結婚しよ、してた!)」

 

(恥じらいの中にやけくその様な表情が、妻にいろどりを添えている)


「今キッツって言った!言いました!」 

「そんなことないよ。似合ってるよ」


 片目でウインクをしながら、両腕で自分の胸部を挟んで強調して…これが俺と妻が産まれる前に作り上げられたという、伝説の『だっ〇ゅーの』。今、冬だけど。

当時の妻では不可能だったことが、成長した今の妻なら余裕で…いや、たわわすぎて、こぼれ…コホン。涙が…。

 

「すばらしかったです」

「涙を流すほどですか!?」 

「はい」

「即答…」 


 この後は、一緒にDVDを見て色々と同じことをしてもらって…膨らんだ夢が現実になっていくのは素敵な事ですね。


 そんなこんなで夜は更けていった。 


つづけ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る