#13
シホに促されるまま、こちらに無関心な魔物に向かい剣を構えるエルテ。恐る恐る剣を振ると非力な攻撃が魔物に当たる。
すると、まだピンピンしている魔物がゆっくり彼女の方を向く。
「ど、どうしよう、シホ。怒らせたかも!?」
「まだ敵意は無いみたい。続けて攻撃してみて」
エルテが必死に剣を振ると三本の見事な軌跡を描いた。それを見ていたシホとメリランダは目を丸くする。
◆あれ?今のって私と同じスキルじゃ・・・・?
しかし、レベルの差もあってかまだ魔物は倒れる様子はない。魔物が彼女に向かい一歩足を踏み出すと、エルテは驚いて顔を逸らし手を前に突き出した。
その時、魔物の足元に白い魔法陣が発現し、その体が光の柱に包まれた。そして光の中で蒸発する様に消えていく。
少し離れた場所でその様子を見守っていたメリランダは驚いた。
「今のは聖魔法!?間違いない、あれは天使の梯子!」
二人に駆け寄るメリランダにシホが少し呆れた様子で声を掛ける。
「もう、メリランダ。エルテを助けてくれるのはありがたいけど、倒しちゃったらエルテのレベルが上がらないじゃない」
「私は何もしてませんよ」
「え?じゃあ誰が・・・・」
「エルテさん以外考えられません。ちょっといいですか?」
解析魔法でシホとエルテの情報を表示させると、それを見比べてメリランダは暫く考えた。
「レベル3になっているのが、エルテさん自身がたった今魔物を倒した証拠でしょう。問題はスキルです。シホさんと私のスキルの一部がいつの間にか加わっています・・・・。考えられるのはエルテさんの固有アビリティ、情愛共鳴とかいうやつですね。一体どういった発動条件なんでしょうか?」
シホはエルテに心当たりが無いか尋ねたが、彼女は首を横に振った。
◆エルテに何かあっただろうか?私はよくよく思い返した。
変化と言えば、ここに来るまで冷たかった彼女がやっと話してくれるようになった。そして私を友達と・・・・。
「友達・・・・。エルテが友達と認めてくれた!」
メリランダも納得する。
「なるほど、心の距離ですか!しかし情愛とは色恋沙汰も含む言葉です。これは親密になればなる程、対象者のスキルをより多く共有できるのかもしれませんね」
エルテはそれを聞き一人、血色の無いはずの顔を赤らめていた。
「私だけ心の中を見られる様な能力なんて・・・・!メリランダ!今後、私の能力を勝手に覗くの禁止!」
「ふふ、でもスキルを使用したら判っちゃいますけどね」
「もう、なんでこんな能力・・・・。恥ずかしい」
「しかし、私もお友達として認めてくれていたのですね。では、お近づきのハグです」
メリランダはエルテに抱き着くと両手を無駄にわさわさしている。
「ちょっと、やめてメリランダ!手つきがなんかやらしい!シホ、見てないでメリランダを引き剥がして!」
近寄るとシホもメリランダに捕まる。にやけるメリランダは、
「やきもちですか?シホさん。いくらでも抱いて差し上げますよ?」
「違うって!」
「お二人ともひんやり冷たいのに、なんだか温もりが伝わってくる様です」
「訳の分からない事言ってないで、いい加減放しなよメリラ・・・・」
メリランダは二人をより強く抱きしめると黙って俯いた。その頬からは涙がポタポタと滴っていた。それに気づいてしまったシホは、
「メリランダ・・・・?」
「お友達になれたのが嬉しくて、つい・・・・」
シホとエルテは自然と彼女を抱きしめ返していた。メリランダは少し震える声で二人に話す。
「わがままを言ってもいいでしょうか?私もお二人にはこのまま朽ち果てて欲しくはないのです。ずっとお友達でいられるように上位種に成って下さい」
そんな彼女の願いにシホは答える。
「困った変態さんだね。頑張るよ」
「ぐすっ。前にも言いましたが、私は変態ではありません。性癖が珍しいだけです」
「・・・・じゃあ何で私のお尻を鷲掴みにしてるの!?」
「あ、すみません、手元が狂いました」
撫でる様にメリランダの手が腰元に戻ると、シホが鳥肌を立てるのを見てエルテがクスクスと笑いだす。
「すっかりメリランダのペースに飲まれた。こんな所で何やってるの私達」
三人に笑顔が咲くと、暫くしてメリランダが真面目に話し出す。
「しかしお二人の能力は、もしかしたらもしかするかもしれません。どんな冒険者より可能性を秘めていると思います。この大カタコンベ攻略も夢ではないかもしれませんよ」
◆彼女の言う通り、私も不思議と希望が湧いてきた。人間だった時よりも、充実している気がするのは何でだろう。
それに漠然とだけど、エルテも生きる喜びを取り戻してくれて良かった。私の勝手な望みが、彼女達の望みにもなるなんて思ってもいなかった。
死者の王も秘宝も必ずこの目で確かめてやるんだ。そして私はエルテを・・・・。
三人は着実に戦う力を育みながら、墓標畑の終わりである30層目を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます