顔合わせ2

「知っての通り特殊な職業の持ち主でドラゴンを従えている。能力値も高くて二年にも引けを取らない」


 何人かは品定めするようにトモナリのことを見ている。

 タケルも一度負けたけれど次は負けないというような目をしていた。


「では次」


「清水瑞姫です」


 トモナリの隣のミズキが自己紹介をする。

 部屋に入ってきた時は緊張したような顔をしていたけれどトモナリがいた驚きで緊張も吹き飛んでしまったようである。


「工藤サーシャです」


 そして知っている顔はミズキだけではない。

 なんとサーシャまで来ていた。


 トモナリと視線が合うとサーシャは微笑んで小さく手を振る。

 それに対してヒカリがぶんぶんと手を振り返していた。


 もう一人特進クラスの子と一般クラスからも一人入部するようだった。

 コウの入部が特別早かったようである。


 これでユウト以外の8班が揃ったなとトモナリは思っていた。


「さて課外活動部の自己紹介も兼ねてまずは腕試しといこう」


 新入部員の自己紹介を終えて部屋を移動する。

 ホテルの部屋の奥には何もない部屋があった。


 魔法などにも耐えられるような特別な設計になった頑丈な部屋で魔法や戦いの練習に使うことができる。

 他の階の予約が必要なトレーニングルームもこうした部屋になっている。


「それでは自己紹介も兼ねて一人につき三回ずつ先輩方と手合わせしようか」


 なぜ場所を移動したのかと思っていたら早速実力試しらしい。

 木刀を手にしたトモナリが前に出ると課外活動部の先輩たちが視線を交わす。


 よし俺がと前に出ようとしたタケルをカエデが止めた。


「じゃあ俺が」


 前に出てきたのはツンツンとした髪の男子学生だった。


「二年の浦安零次(ウラヤスレイジ)だ。職業は槍術士、よろしくな」


「よろしくお願いします」


 レイジは壁際に置いてあった木の槍を手に取ると巧みにグルグルと振り回す。


「二年にも匹敵するんだろ? 本当かどうか試してやるよ」


「先輩の胸をお借りします」


「よしいくぞ!」


 槍を構えたレイジがトモナリと距離を詰める。

 非常に素早く槍で戦う距離を取られてトモナリは後ろに下がろうとした。


「逃すかよ!」


 しかしレイジはトモナリの動きを読んでいたように自分に有利な距離を保ち続ける。


「おらよ!」


 レイジが槍を突き出してトモナリを攻撃する。

 コンパクトで速い突きは一瞬でトモナリの目の前に迫ってきた。


「やるじゃねえか!」


 トモナリが最小限の動きで槍をかわすとレイジはニヤリと笑った。

 木の槍なのに髪の毛が何本かやられた。


 単なる手合わせとして油断してはいけないとトモナリは気を引き締める。


「これならどうだ!」


 レイジがさらに素早い突きを何度も繰り出す。

 かわせるものはかわして、かわせないものは防御する。


 素早さはトモナリよりも高そうだが冷静に対処すれば反応できない速さでもない。

 上手く槍を防がれ続けてレイジが少し苛立った顔を見せる。


 突きだけでなく槍を振るなど攻撃にも変化を持たせて攻撃し始めた。


「ヒカリちゃんはいかなくていいの?」


 トモナリが戦う一方でヒカリはサーシャに抱きかかえられていた。

 トモナリが戦っているのにヒカリは戦わなくていいのかと小首を傾げる。


「ふっふ〜僕は秘密兵器だからいいのだ!」


 ヒカリはドヤっとした笑顔を浮かべる。

 トモナリもヒカリを戦わせるのか少し悩んだけれどレイジとの実力差もそれほどなさそうなのでここはヒカリを温存することにした。


 負けそうならヒカリにも飛び込んでもらうつもりはあった。


「くっ!」


 トモナリの木刀がレイジの頬をかすめた。

 段々と動きを読んできてトモナリも反撃し始めていて戦いの状況が変わりつつあった。


「スキル迅雷加速!」


 このままでは負けてしまいそう。

 レイジは少しプライドを捨てて自分のスキルを発動させる。


 負けるよりはいいと思った。

 レイジの体にバチバチと小さく電撃が走ったと思ったら急に動きが速くなった。


 少し力が下がり魔力を消費する代わりに素早さを大きく向上させてくれるレイジの第一スキルであった。


「うっ!」


 視界から消えるようにして後ろに回し込んで腰へ伸ばされた槍をトモナリは体をねじってかわす。


「あれを初見でかわすか」


 トモナリとレイジの戦いを見ていた他の先輩方は驚いていた。

 二年生ながらレイジの素早さは高く、特にスキルを発動すると直後の速度の速さは対応するのも難しい。


 知っていてもそうなのに知らないで防いだトモナリの実力は認めざるを得ない。


「頑張るんだぞ、トモナリ」


 少し危なそう。

 飛び込みたい気分を抑えるヒカリも応援に力が入る。


 トモナリを信じている。

 きっと自分の力がなくてもトモナリなら勝ってくれる。


「チッ……」


 最初の一撃が一番惜しかった。

 それ以降の攻撃はトモナリが冷静に対処していた。


 速度では確実に上回っているのにどうしてだとレイジは思わず舌打ちしてしまった。


「速いですね」


 ただそれだけであるとトモナリは思っていた。

 確かに素早いというのは脅威である。


 簡単には捉えられない素早さは非常に厄介な能力であり、現にトモナリも苦戦している。

 けれどレイジは今のところ速いだけなのだ。

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