顔合わせ1

 トレーニング用の建物は普段使う器具が置いてあったりリングがあるトレーニング棟の他に二つある。

 一つは魔法トレーニング棟。


 これは文字通り魔法を練習するための建物である。

 そしてもう一つあるのが予約トレーニング棟。


 二つのトレーニング棟が自由に使えるのに対してこちらは利用に事前の予約を必要としている。

 個人で使うこともできるし部活動などでも利用されることがある大きな建物で地上五階、地下二階となっている。


 しかし実はもう一つ上の階があって、そこは予約トレーニング棟の最上階は予約の一覧には載っていない。

 よく見ると建物が六階なのだけど普段気にしなければ気づかない人がほとんどである。

 

 予約トレーニング棟の一階、エレベーター並ぶ部屋の奥に関係者以外立ち入り禁止と書かれたドアがある。

 その中にはもう一機エレベーターがある。


 ボタンは一階と六階しかない。

 今日は課外活動部での顔合わせの日であった。


 他の部活は部活棟があってそちらに部室を持っているのだけど、課外活動部だけは例外的に予約トレーニング棟の六階全体を部室として与えられていた。


「おお、秘密感があってカッコいい!」


 秘密のエレベーターに乗ったトモナリとヒカリは六階まで上がっていく。

 奥まった場所にあるだけだがヒカリは上がるエレベーターにちょっとワクワクしていた。


 二階から五階までの到着しない階を通り過ぎて六階に止まる。

 エレベーターの扉が開くと正面にドアがある。


 トモナリは学生証を取り出すとドアの横にある装置にかざす。

 ピッと音がしてドアの鍵が開く。


「ちょっと緊張するな……」


「私がいるから大丈夫だぞ!」


 どんなことでも初めてというのは緊張する。

 ドアの前で一呼吸置いて緊張を和らげようとするトモナリの頬にヒカリが頬を擦り合わせる。


「そうだな」


 トモナリは思わず笑ってヒカリの頭を撫でる。

 緊張したって仕方がない。


 頼もしい相棒もいることだし堂々と入っていこうとドアに手を伸ばす。


「おっ、来たか」


「あの子が噂の……」


「てことはあれが例の魔物か」


 入ってみるとそこはホテルの良い部屋みたいなところだった。

 すでに課外活動部の生徒たちが集まっていて部屋に入ってきたトモナリに一斉に視線が向いた。


「あれ、トモナリ君?」


「コウじゃないか」


 トモナリは知らない顔がほとんどだったが知っている顔もあった。

 部屋にはいくつもソファーが置いてあって、その一つにコウが座っていた。


 トモナリのことを見て驚いたような顔をしている。


「君もこの部活に?」


「ああ、そうなんだ。というか同じこと俺も思うよ」


「僕は姉さんに誘われてね」


「姉さん?」


「うん。黒崎美久っていう人で学長の秘書をやってるんだ」


「えっ、あの人お前の姉さんなのか?」


「あっ、知ってる?」


「一度会ったことがある」


 アカデミーに来たばかりの時に寮に案内してくれた人がミクだった。

 黒髪のクールな美人な人だった。


 言われてみればコウとにていないようなこともない。

 コウを女性にしたらあんな感じのクールな印象の美人になりそうだと姉弟なことを意識して見ると思った。


 学長の秘書なら課外活動部について知っていてもおかしくない。

 コウは賢者という良い職業を持っているし課外活動部にはちょうどいい。


「君が来てくれるなら僕は嬉しいよ」


 コウは柔らかな笑顔を浮かべる。

 強くて仲間思いなトモナリがいてくれるなら今後の活動でも心強い。


「俺はみんなに歓迎されてないのかな?」


 観察されるような目を向けられていて少し居心地悪さをトモナリは感じていた。


「そんなことないと思うけど……君は有名だからね」


 コウは肩をすくめた。

 もうすでにトモナリは知る人は知っている噂になりつつあるのでみんなもどう接したらいいのかと距離感を測っているのだろうとコウは思った。


「あれ……」


 よく見てみると他にも知った顔があった。

 カエデとタケルも部屋の中にいた。


 以前タケルはトモナリに絡んできて仕方なく手合わせをした。

 カエデはオウルグループという大きな覚醒者ギルド企業の令嬢である。


 タケルとの関係性をトモナリは正確には知らないけれど深い関係性のようでタケルはカエデのためにと突っ走った行動をした結果トモナリに絡んできていたようだった。

 トモナリが視線を向けるとカエデは薄く微笑みを浮かべて小さく手を振った。


 ガキの頃だったらドキリとしてしまいそうな雰囲気がある動作だった。


「おお、もうみんな揃っていたか」


 自分から言い出して自己紹介でもした方がいいのかと悩んでいると部屋にマサヨシが入ってきた。

 その後ろからはミクと何人かの生徒がついてきていた。


「あっ……」


 知った顔が多くてトモナリは驚いた。

 マサヨシが手招きするのでトモナリはマサヨシの横に立つ。


「なんであなたがいるのよ?」


「俺も誘われたからだ」


 トモナリの隣にはミズキが立っていた。

 ミズキはトモナリを見て目を丸くして驚いている。


「こいつらが俺の言っていた新しい入部者だ。軽く自己紹介を。アイゼン君から」


「はい。愛染寅成と言います。職業はドラゴンナイト。こいつが俺のパートナーのヒカリです」


「うむ、みんなよろしくな!」


 ヒカリが笑顔で手を振ると少しみんなの表情が柔らかくなる。

 回帰前は邪竜だったヒカリを見るだけでみんなが険しい顔をしたものだけど少し変わるだけだいぶ違うものである。

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