みんなでトレーニング1
「部活動ですか?」
「そうだ。君は何もやっていないようだね?」
ある日マサヨシがトモナリの部屋を訪ねてきた。
学校が休みの日でトレーニングにでも行こうと思っていたところだった。
話があるというので部屋に入れるとピクニックでも行くようなバスケットを持ってきていた。
なんだと思ったら中にはお菓子がぎっしり。
もちろんそれはヒカリにあげるためのものだった。
モンスターであるということからヒカリのことをみんな怖がるかもしれないとトモナリは思っていた。
けれど実際堂々とヒカリが表に出てみるとみんなは意外とヒカリのことを受け入れてくれた。
モンスターだからとドン引きして距離を置いている人もいるけれどクラスのみんなやマサヨシはヒカリのことを可愛がってくれている。
マサヨシが壁になってくれているのかヒカリのことは騒ぎにもなっておらず、ヒカリ周りに関しては想像よりも穏やかに過ごせていた。
マサヨシは部活動はやらないのかとトモナリに尋ねた。
鬼頭アカデミーも高校であるので部活動なんてものがある。
運動部から文化系の部活まで様々でそうした部活用の設備も充実している。
覚醒者は一般の人よりも身体能力が高いために一般的な大会に出場することはできない。
それでも部活動は意外と盛んでアカデミー内での競い合いは激しい。
近年では他のアカデミーや国外のアカデミーを含めた覚醒者大会を開いている競技もあったりするのだ。
「まあそうですね。今のところは特に考えてません」
色々な部活はあるけれどトモナリはどこにも所属していなかった。
普段はトレーニングしているし部活に入ろうかなと思ったこともない。
なんか誘われたりしたこともあったけど興味もなかった。
「一つ入ってみるつもりはないか?」
「部活にですか?」
「そうだ」
「うーん、なんの部活でしょうか?」
あまり部活に入るつもりはないけれどマサヨシがわざわざ話に来たということは何かがあるのかもしれない。
ひとまず話だけでも聞いてみることにした。
「君にはもう話したがこの世界には終末教という危険な存在がいる。だが多くの生徒はその存在を知らない。三年になれば習うが……実際にその危険性を理解出来る人は少ない」
いきなり終末教という組織がいてゲート攻略を邪魔していると聞かされても実感として危機感を覚える人はなかなかいない。
実際に目の前で邪魔をされてみれば一瞬にして危険な連中だと分かるのだけど、話だけではどうしても難しいのはトモナリも理解している。
「特進クラスではそうした終末教にも対抗できるように力をつけていってもらいたいが……主な目的はやはりゲートの攻略となる」
後ろで手組んだマサヨシはお菓子を食べるヒカリをじっと見ている。
「そこでより信頼できる人を集めて、より少数で終末教と戦うための覚醒者を育成しようと私は考えている。それが課外活動部だ」
「課外活動部……」
トモナリでも初めて聞く部活だった。
「知らないのも無理はない。表立っては活動していないからな。勧誘などもしないし表にポスターなんかもない。だがアカデミーの中では部活として存在しているのだ」
「そうなんですね」
「一般的なクラスではレベル20、特進クラスでは40、そして課外活動部ではレベル50を目標としている。部活としてのより多くのゲートの攻略を目指し、対人戦闘の訓練も行って切磋琢磨してもらう」
「レベル50ですか?」
レベル40だってあげるのはなかなか大変になる。
あくまでも目標なので絶対的なものではないが、レベル50となると目標とするのにもかなり高い壁に感じられた。
「そのための支援は惜しまない。以前君にあげた霊薬や魔道具、装備、スキル石だって支援しよう」
「……一つだけ教えてください」
「なんだ? なんでも聞いてくれ」
「どうしてそこまでしてくれるんですか? どうして……そこまで終末教を敵対視しているのですか?」
覚醒者を育てるというアカデミーの理念は分かる。
だがマサヨシの話を聞いていると覚醒者を育てることの目的に終末教に対するものを感じる。
危険な相手なので対抗できるような力を身につけるということは分かるのだけど、どうしてそこまで終末教を念頭に置くのか気になっていた。
「……愛しい人を終末教のせいで失ったのだ」
ヒカリからトモナリに視線を移したマサヨシの目には悲しみが浮かんでいた。
マサヨシは有名とまではいかないけれどそれなりに名の知れた覚醒者だった。
しかし突然一線を退いて私財を投げうってアカデミーを創設した。
なぜそんなことをしたのかというその答えの一端を見たような気がする。
「出過ぎたことを聞きました……」
「いいのだ。気になるのもしょうがないだろう。だが俺は君たちにこのような悲しい思いをしてほしくないのだ」
「……どうやったら課外活動部に入れるんですか?」
「明日集まる予定がある。そこに君を招待しよう」
「僕も行くぞ?」
「もちろんヒカリ君も招待しよう」
「もちろんだ」
「ふふ、それでは失礼する。お菓子は好きに食べてくれ」
マサヨシは大きな手でヒカリを優しく撫でると部屋を出ていった。
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