入学式2
トモナリは言われた通り寮の一階端にある部屋に入る。
「ここが今日からウチか……」
回帰前の高校の時は地元にいるのが嫌で離れたところの高校に行った。
そちらでも同じく寮生活だったけれど二人部屋だった。
「全然違うな……」
狭い部屋に二人生活だった時に比べると今は一人、に加えて一匹である。
それだけでも部屋が広く感じる要因なのだが、実際に部屋は広かった。
普通の寮と比べても広い。
正直な話こんな広さ一人でいるにはいらないのではないかと思う。
特進クラスに対する特別待遇ということなのだろう。
「ヒカリ、いいぞ」
「ふぉーい……」
「お前まだ寝てたのか」
満腹になって寝ていたヒカリは目をこすりながらリュックの中から出てきた。
別にリュックの中が心地いいということはないのだけどトモナリのそばにいるとなぜなのか落ち着く感じがあるとヒカリは感じていた。
「トモナリ〜まだ眠い」
「ベッド使ってもいいぞ」
「トモナリの膝がいい」
「……ちょっとだけだぞ」
トモナリもなんだかんだヒカリには甘い。
ストレートに甘えられると断れない。
フラフラと飛んだヒカリはベッドにあぐらをかいて座ったトモナリの足の上で丸くなった。
「ここは僕だけのものだ」
「いや、俺のもんだろ」
「ふふ、じゃあ僕とトモナリの」
「まあ……いいか」
どうせ他の人に膝を貸すことなんてない。
トモナリは笑ってヒカリのことを撫でてあげる。
するとまたスヤスヤと寝息が聞こえ始める。
「しょうがないな」
こうなってしまったらできることは少ない。
動くわけにいかないので動かなくてできることをしようとスマホを取り出した。
無事アカデミーに到着したことをゆかりに連絡し、先に取っておいた机の上にあったプリントを確認する。
細かいことは入学式後に行われるオリエンテーションで説明されるようだが先にある程度把握しておいて損はない。
一年の時は普通の高校の授業に加えて覚醒者としての心構えや世界の状況などの授業、体を動かしたりする授業などがある。
二年からモンスターの討伐などが増えていき、三年になると勉強を優先するか覚醒者授業を優先するか選べる。
そして特進クラスはそうした一般的な授業と別のプログラムが組まれるようだった。
「明日から本格的にアカデミーか。うん、やってみせる。俺は変わるんだ」
もうすでに多くのことが変わっている。
これから起こることはトモナリにも予想がつかないことばかりであるけれどきっと変えてみせる。
そして自分自身も逃げてばかりだった回帰前の自分と変わってみせるのだと強く心に誓った。
ーーーーー
「ちょっと大きかったけど……すぐにピッタリになるか」
少し大きめな制服に身を包んだトモナリは他の新入生と共に教室に集まっていた。
ヒカリは部屋で留守番してもらっていて今はいない。
指定された席に座って待っていると若い男性教員が入ってきて入学式の簡単な説明をしてくれた。
そして入学式の会場となる講堂に移動した。
入学式が始まり在校生代表の挨拶なんかが行われる。
「私は長い話が苦手だ。だから簡潔に終わらせよう。これから辛いこともあるかもしれない。しかし自分がどんな道を歩みたいのかをしっかりと見つめながら少しずつでも前に進んでほしい。そのために私たちは協力を惜しまない」
学長の挨拶も行われる。
マサヨシが前に出て挨拶をするのだがサラリとした言葉を送って挨拶は終わってしまった。
最後に目があったような気がするなとトモナリは思ったけれど気にしないことにした。
眠たくなるような入学式が終わって再び教室に戻る。
「俺が副担任の入山竜司(イリヤマリュウジ)だ」
教室に戻ると男性教員が改めて自己紹介する。
副担任、というところに教室がざわつく。
「本来の担任は学長の鬼頭先生であるが忙しいからな。基本的なことは俺が担当する」
トモナリがいる教室はそのまま特進クラスの教室であった。
そのため名目上の責任者、担任は鬼頭正義であるのだが学長としての仕事があるために普段の担任としての仕事は副担任であるイリヤマが行うようだった。
そうなのかと皆納得してざわつきが収まる。
「それではみんな自己紹介をしていってもらう。今回は覚醒者としての職業と名前なんか軽く言っていってくれ。では前の端の席から」
一人ずつ立ち上がって名前と覚醒者としての職業を言って軽く挨拶の言葉を述べて、それに対して拍手でも返していく。
希少な職業や特殊な職業というのはあまり多くなく基本的な戦士、剣士やタンク、魔法使いといった普通の職業が並ぶ。
「黒崎皇(クロサキコウ)です。職業は賢者。卒業後も覚醒者としてやっていきたいのでよろしくお願いします」
教室がざわついた。
魔法職の中でも最上位職業に当たる賢者は希少な職業である。
魔力の能力値が高くてスキルも魔法に関わったいいものを得られやすい。
将来活躍する可能性が高い。
メガネの真面目そうな男の子で割と整った顔立ちをしている。
賢者っぽい感じがあるとトモナリは思った。
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