入学テスト3
「覚醒者になった経緯はわかりました。では覚醒者ステータスを……」
「その前に一つ聞きたい」
トモナリの正面、真ん中に座るマサヨシがスッと手を上げてムナカタを止めた。
アカデミーの学長であるマサヨシはムナカタの上司になる。
ムナカタは大人しく言葉を止めてマサヨシの様子を窺う。
「どうして大きなリュックを持っている?」
マサヨシはずっと気になっていた。
トモナリが大きなリュックを背負っていることを。
学力試験の時も同じリュックであったことを見ていたし、今も必要ないのに椅子の横に置いている。
特に持ち物を制限していないので咎めるつもりはないけれど、そんなに肌身離さず持っている理由がなんなのか知りたかった。
(それに……あのリュックから異質な魔力を感じる)
マサヨシはじっとリュックのことを見ていた。
リュックから不思議な気配がするということも感じ取っていた。
「……それについてもお話ししておきたかったんです」
実際の問題としてトモナリが覚醒したということを隠し通してここまで来ることはできた。
ミズキだけ覚醒したとか言えば本人が開示しない限り覚醒したかどうかは分かりにくいので鬼頭アカデミーの入学まで隠してはおけただろう。
受験生の中には覚醒しているのに隠して受験している人もいる。
未覚醒者はモンスターを倒して覚醒しなきゃならないところ、覚醒していれば煩わしい作業を省略できる。
裏を返せばそれだけであり覚醒者だと明かすメリットは大きくない。
こんな風に面接されるぐらいならモンスターを倒した方が楽でいいと考えてもおかしくないのだ。
だから覚醒していることを明かしてもいいし明かさなくてもいい中でトモナリは覚醒していることを明かすという選択をした。
なぜなら覚醒者だと明かした時に行われる入学テストの面接には鬼頭正義が確実にいるのだとトモナリは知っていたからだった。
「ヒカリ」
「ほれきたー!」
トモナリの呼びかけに応じてヒカリがリュックの中から勢いよく出てきた。
「なっ……」
「モンスター!?」
ムナカタとトモナリから見て左の男が突如として出てきたヒカリに驚いて立ち上がる。
「まっ、待ってください!」
ムナカタの右手に炎が渦巻いて、トモナリは慌ててヒカリの前に飛び出した。
「愛染さん、これはどういうことですか!」
炎を放ちかけていたムナカタはトモナリが飛び出してきて動きを止めた。
ムナカタと左の男に怖い目で見られているヒカリはトモナリの背中にしがみついて肩越しに顔を出していた。
「こいつは俺のパートナーで、悪い奴じゃないんです」
「モンスターが悪いやつじゃない? 何を……」
「待ちなさい」
ヒカリのことを受け入れなさそうな二人と対照的にマサヨシは冷静に状況を見ていた。
立ち上がったマサヨシはゆっくりとトモナリの前まで歩いてきた。
「パートナーとはどういうことだ?」
「ステータスオープン。こちらをご覧ください」
トモナリはステータスを表示する。
ステータスは他人に見えないものであるが、意識すれば他人に開示することもできる。
「ドラゴンナイト?」
マサヨシはトモナリのステータスを見て眉を吊り上げた。
覚醒者として活躍してきたマサヨシでも見たことがない職業だった。
「俺のスキルを見てください」
「魂の契約……」
「俺はこいつと契約したんです」
「ドラゴンと契約できるスキル……?」
「こんなもの初めて見ました」
ムナカタと左の男も来てトモナリのステータスを確認する。
色々と驚くべきところはあるけれどひとまず今はスキルを見て驚いている。
「つまりそれはドラゴンで、君が契約しているということなのか?」
「そうです」
「よければドラゴンを見せてもらってもいいか?」
「どうぞ」
トモナリは背中にしがみついたヒカリを両手で掴むとマサヨシの前に差し出した。
マサヨシは険しい顔でヒカリを見つめる。
まさか手を出さないよなとドキドキしながらトモナリはマサヨシのリアクションを待つ。
「……可愛い」
「えっ?」
「いや、ゴホン。ひとまず危険なことはなさそうだ。面接を続けよう」
ボソリと呟かれた言葉をトモナリは聞き逃さなかった。
しかしマサヨシはごまかすように咳払いをしてさっさと席に戻った。
「今あいつ可愛いって言ったぞ!」
「ヒカリ、やめるんだ」
ニンマリ笑ってヒカリがトモナリの耳元でささやく。
ヒカリも可愛いと呟いたのを聞いていたのだ。
けれど今それを突くとやぶ蛇になりそう。
「図らずしもステータスを見せてもらうことになったな」
マサヨシはまるで何事もなかったかのように面接を再開し始めた。
けれど視線はトモナリではなくトモナリが膝に抱えているヒカリに向けられている。
第一印象では怖そうな人だと思っていたのに意外と良い人かもしれない。
「ドラゴンナイトや魂の契約というものも初めてですが……実際にドラゴンと契約している。さらには能力値までレベル1にしてはかなり高い……」
改めて面接を再開したのだけどムナカタと左の男の動揺は隠せない。
ドラゴンであるヒカリのことも飲み込めきれていないのにトモナリのステータスは尋常ではなかったからだ。
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