ヒカリが生まれた1
「はぁ……」
見慣れない天井にトモナリは失敗したと思った。
せいぜい保健室だろうと思って寝たのに気づいたら病院だったのだ。
たっぷりと眠ったから頭はスッキリしたが気分は最悪。
かなり大事になるだろうなと考えてはいたが病院までいくとちょっとやりすぎかなと反省する。
学年主任の先生は真面目だったことをトモナリは初めて知った。
「ふぅ……」
体を起こしてみる。
頬は腫れていて痛いけれどそれ以外に問題はない。
「トモナリ!」
看護士の人を呼んで状況でも聞こうかと思っていると病室にトモナリの母親であるゆかりが入ってきた。
起きているトモナリを見るなり走ってきてギュッと抱きしめた。
「よかった……! 病院に運ばれたって聞いて心配したのよ!」
「…………ごめんなさい」
普通におはようとでも言うつもりだったのに強く抱きしめられてトモナリは深く反省した。
カイトに一泡吹かせて立場を無くしてやるだけの考えだったのだが、今の自分には心配してくれる人がいると言うことを忘れていた。
「あなた……いじめられてたの?」
「……うん」
昔は知らなかった。
イジメの理由を本当は高校の時に人づてに理由を知ったのだが、今は不思議な記憶があるのでなんでいじめられているのか知っている。
キッカケは些細なことだった。
トモナリは比較的頭が良い方なのだがトップではない。
同じくトップではないけど頭が良い方の友達がいて、どちらがテストで得点が上になるかという勝負を行った。
だがその時たまたまカイトは気になる子がいてテストで良い点を取ってやると言っていた。
頭も良くて運動神経も良いカイトは以前から中心的な人気者で少し本気を出せばクラスで一番になることなど容易いと考えていた。
結果的にトモナリがクラスでトップになってしまったのだ。
たったの一点差。
しかし負けたということにカイトはひどく醜い感情を持ったのである。
最初は憂さ晴らしのようなものだったのかもしれない。
少し悪戯をする程度であったのだがいつの間にかそれはイジメになっていた。
元を辿ってみればなんてことはない理由のくだらないイジメだった。
「気づいてあげられなくてごめんなさい……」
ゆかりが悲しげな目をしてゆっくりと首を振る。
「いいんだ、母さん」
トモナリもゆかりに手を回して抱きしめる。
記憶に残っている未来ではトモナリは最後まで母親にイジメのことを知られることなくひたすらに耐え忍んだ。
「俺……もう我慢しないから」
「トモナリ?」
「学んだんだ。自分から動かなきゃ何も変えられないって」
世界が滅びに至る不思議な記憶がトモナリの中にはある。
その中で色々な経験をした。
臆病で逃げ回っているばかりだったトモナリは何も手にすることもできず、全ての大切なものが手をすり抜けていった。
今の自分に何が起きたのかはまだ分かっていない。
しかし仮に人生をまた与えられたのなら今度は自らの手で掴み取っていく。
もう手放さないと誓った。
「今度は俺が母さんを守るから」
そしてトモナリはもう二度と大事なものを何かに奪わせはしないと心の中で誓った。
「アイゼンさん」
病室に学年主任の先生とトモナリの担任、そして校長と教頭が入ってきた。
「この度はこのような事件を起こしてしまい誠に申し訳ありませんでした」
校長が前に立ち四人の大の大人がトモナリとゆかりに頭を下げる。
校長の話によるとトモナリが寝こけている間に担任の先生やカイトから話を聞き、あるいはクラスでいじめがあったかの調査が行われた。
普段どんなにいい子ちゃんしていても先生の前で人を殴ったという事実は変えようもない。
最近尊大になってきたカイトに対して不満も溜まっていたのかここぞとばかりにみんなもカイトがトモナリをいじめていたことを答えた。
ついでに担任の先生がいじめが発生したことを周りに知られたくなくてカイトの行動を止めもせずに黙認していたことも完全にバレたのだった。
ゆかりは大激怒していた。
こんなに怒った母親の姿を見たのは初めてかもしれないとすらトモナリは思った。
校長は穏便に済ませたいと口にしたけれどぶん殴ってしまった以上完璧な事件である。
暴行や傷害といった内容で警察のお世話になる可能性すらあるのだ。
担任や校長の処分は後ほど決まることになっていてトモナリは身体的、精神的にもしばらく学校を休むことになった。
「どうしてこんなことに……」
「悲しまないで、母さん」
全ての話が終わってゆかりは意気消沈したように椅子に座り込んだ。
少しだけやり過ぎてしまったとは思うけれどトモナリとしてはこれでよかったのだと思う。
「これでよかったんだ。俺は大丈夫だから」
むしろこうなったことで都合がいいとすら感じている。
「でも……ここじゃなくて家がいいな。母さんのそばがいい」
「トモナリ……そうね、あなたがそうしたいならそうしましょう」
たかが殴られただけだ。
入院するまでもないし、病院では自由に行動ができない。
トモナリは家で様子を見ることにして退院したのであった。
ーーーーー
「はぁ?」
朝に家を出てからおよそ半日も経っていない。
それでも久々の我が家に帰ってきたという感覚で自分の部屋に向かったトモナリは驚いた。
卵デカくなってる。
そう思ったからである。
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