第2話

「あら、前の社長もそうだし、これまでもそうって聞いてるわよ。一橋ソフトが一橋機械から分離して出来たのは知ってるでしょ。

その時から、ここの社長は、一橋機械の機械第一工場の総務や経理、人事の部長だった人のポストなのよ。仕事の関係が無くなった今もね。未希ちゃん、前の社長こと知らなかった」


「会ったことないです」

「ああ、そうか、ほとんどいなかったものね。親会社に行ってばかりだったらしいから。おかげで、大きい子会社の監査役になったらしいね」

「へえ、そうなんですか。あっ、それと、社長が、ここに来たのを驚いているとか、みんなが心配してる一橋機械の業績とかって言ってましたけど、私達に何言いたかったんですか」

「私達に何かを言いたかったんじゃなくて、誰かに聞いて欲しかったことを話しただけ。気にすることないわ」


「働き方改革やジョブ型雇用って」

「働き方改革って言うのは、残業代をケチること。

ジョブ型って言うのは、人に仕事を割り当てるのじゃなくて、仕事に人を割り当てること。

この会社はもうそうなってるわ。社長以外はね。

定年制や新卒一括採用を続けてる親会社では中高年の給与減らしね。この会社じゃこれもあまり気にすることはないわ」

私、仕事に合わせて、遅く来たり早く帰ったりしてるので、残業もそんなにない。中高年でもないから、どっちも気にしなくていいってことだ。


「3人の本部長が来るって」

「そうね、そこは気になるわね」

部長と何か話していた賀屋さんが席に戻ってきた。

美馬さんが賀屋さんに話しかける。

「本部長の話って、賀屋さん聞いてました」

「いや、部長も聞いていなかったって。多分、営業部長や田辺課長も聞いてなかっただろうね」

「そうですか、でも3人もっていうのは困りますね」

「うん、3人だから3500万くらいか。

今期は結構利益が出ると思ってたけれど計算が狂っちゃうね。増える予定のみんなのボーナスが減っちゃうな」

「表の配当が500万。裏の配当が今までは社長の2000万だけだったけれど、5500万になっちゃうのですね。

売上4億、利益1500万の会社にちょっとひどくないですか」


「まあ、親会社の業績が悪いから協力しろってことだろうね。

業務上の取引があればそこで融通しろってことになるのだろうけれど、それがないからこれが来たのだろうな」

「配当を増やしとけばよかったのかな」

「いや、そうしても同じだったろうね。

一橋ソフトがここのところ業績がいいから、お金を吸い上げるための監視も含めての送り込みだね。

これから配当も増やせ、人ももっと引き受けろになるんじゃないか。

上下関係を使って上の悪い業績を隠す、日本の大企業の変わらないやり方だね」

「これで、中小企業の生産性が大企業より低いっていうのですからね」

「大企業さえ良ければって考えが、日本に沁みついてるのだろうな」


ボーナスって言葉を聞いて私が割り込む。

「ボーナスが減るって今聞こえました。3500万とか、5500万とかってなに」思わず敬語が出ない。

「3人の本部長が来るって言ってたでしょ。

まあ、3人合わせて3500万円位を支払うことになるだろうってことね。その分今の社員分が減るでしょ」

「いやだ、もう予定あるのに」

「ま、仕方ないわね」

「それで、2000万ってのは」

「社長の分がそれ位かなって」

「あの人、にっ、にっ、にせんまんえんももらってるんですか」

「今までもそうね。あっ、会社負担も含めてよ。手取りじゃなくて」

「お父さんが可哀そうだ。あの社長とおんなし年くらいで毎日、夜中もトラックで走ってるのに。ぜんぜん少ない」

お父さんは長距離トラックのドライバーだ。

「そうね、世の中、誰もがいろいろ大変ね。さあ、私達は仕事に戻りましょ。未希ちゃん、ほら、テストの続き」

美馬さんに言われ、半泣きになりながら仕方なく仕事に戻る。


4月1日、3人の本部長が来た。

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