誰(た)がために鐘は鳴る
第一章 誰(た)がために鐘は鳴る(前編) その1
「いてて……」
暗闇の中で平野平正行は目を覚ました。
無音で、正行の声だけが妙に響く。
『変な夢……いや、子供の頃の俺だったな……そういや、俺は爺ちゃんに何を言ったんだ?』
先ほどまで見ていた夢を、記憶を思い出そうとする。
その前に、体の節々が痛い。
ブルゾンの内ポケットを探る。
幸い、懐中電灯があった。
明かりをつける。
目の前に階段があった。
コンクリート製で、所々欠けている。
数時間前。
正行は星ノ宮大学総合キャンパスにいた。
ドイツ語を英語で学んでいた正行の脳はパンク寸前であった。
授業が終わり、教授が出ると正行を含め出席者は全員茫然と座った。
正午になり、誰ともなく学食や近くのファミレスで昼食を取ろうと教室を出ていく。
その様はさながら生けるゾンビのようである。
『来月末日までにドイツ語で百人一首から和歌一首と、その真意を訳しなさい』
頭が痛くなる……
最後まで正行は教室で気が抜けていた。
授業に必死に食らいつき、何も考えられない状態だ。
スマートフォンが鳴る。
「はい、平野平です」
本人的にも大分気の抜けた応答だ。
出ないわけにはいかなかった。
平野平家の盟主である猪口直衛からの電話だった。
『おう、久しぶり。早速で悪いんだけど、午後に授業がある?』
猪口は元気そうだ。
「……ないっすねぇ」
『それは、いい。依頼だ。中央塔の鐘を鳴らしてほしいんだ』
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