そして、鬼が生まれた
隅田 天美
序章 暗闇の中で その1
気が付いたら、真っ暗だ。
少年、いや、
身を横たえているのは体にかかる重力で何となく分かる。
腕と足を曲げて、背も丸めている。
何かの音がする。
うるさい。
絶え間ない音が怖い。
暗闇が怖い。
世界で自分だけが一人になった気がした。
誰にも頼れない。
誰にも存在すら知られない。
何より、自分が消えることが怖かった。
暗闇が心まで侵食する。
『生きたい』という願いが涙と嗚咽になる。
「おいおい、どうした? どうした?」
何かに当たる。
硬いが石のようではなく、弾力もある。
その中から何か響く。
今まで聞こえていた音ではない。
規則正しく動く音が振動になる。
小さい頭と小さい背中に何かが触れる。
「……泣き虫だとは聞いていたが、雨の音でこれだけ泣くとはなぁ……秋水が困るわけだ……」
小童、幼い平野平正行の閉じていた目に柔らかいオレンジ色の光が見えた。
「おじいちゃんが来たから……大丈夫だから……」
顔を上げると、祖父の顔があった。
父に似ていた。
また、泣いた。
「あー……怖くないから、怒らないから……」
祖父・春平は必死になだめるが、結局、暖房代わりの火鉢に置いた鉄瓶から白湯を湯呑に注いで冷まして、飲ませるまで正行は泣き続けた。
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