ダンジョンin the sea

古川和(みんち)

第1話 始まり

ジメジメと湿気でカビ臭い階段を降りていた。もう10年以上だろうか、こうやってダンジョンを徘徊しているから何が目的だとか、自分が何者かだとかそんなことはもうすっかり忘れてしまっていたぐらい。始まりは何処だったか。自分は多分この薄暗い無機質なところで産まれたんだと思う。始まったときから勝手に参加させられていた。そういう旅。全ては現地調達。戦闘はすごい地味。


ちょうどあそこにスライムがいる。コーラみたいな色の荒いピクセルの動く液体。すっごい遅いから、手斧でブッチョブッチョやってるとすぐに死ぬ。別に何も落とさないから倒す必要はない。初めは倒していたけど、ドロップ率0%だからもう倒すことはないだろう。もちろんこれは絶対というとはない。次の一匹が初めて何かいいものを落とすかもしてれない。少なくとも俺の観測範囲内でということだ。それから武器もほとんど落ちてない。これは俺が大切にしているボロい手斧。これしか無かったから大切にしている。


カラカラカラ――無機質な空間に響いた音に、体が即座に反応する。逃逃逃。脚に力を入れて、思いっきり走る。決して後ろは振り向いてはならない。勝てることはないのだから。前に壁、右しかないルート。左脚に重心を乗せて思いっきり右折、走走走 汗が床にビジャビジャに滴りながら前進していると、どこからか悠長な歌が聞こえたきた。


♬誰も知らない夜明けが見えた時♬ 小部屋に入ると助かった、と思った。変な帽子にサングラスの男がアコギで弾き語り。


「よかった、旅人」といつもの優しそうな声。 


「相変わらずみすぼらしい装備だね。」

――こんな暗室でグラサンを付けている男に言われたくない……


「そんな斧じゃあ何もできないだろう、これをあげるよ」そう言って男は大きな袋の紐を解きながら、キラキラしたものを嬉しそうに見せてきた。


「これ、グレネードランチャー。ここではtier1の武器。欲しい?」と聞かれたので大きくかぶりをふる。


「重くなるから」


「え?これ軽いよ。それに大体の敵はワンパンできる。」


「いらない。重くなるから。」


男はこちらの装備に目線を移して、落胆したように言った。


「そうかぁ。その手斧大切なんだね。きっと前世は木こりなんだろうね。それともミニマリストの実績解除かなぁ。」


「じゃあこれを持っていくといい」そいういって男は袋から何かを取り出した。


「これは?」


「これはおにぎり。それもただのおにぎりじゃなくて、ギャルが握ったやつ。」


あたりが急に寒くなってきた。突然風が四方から吹く。カラカラはもうこの辺りにはいないようだった。


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