沃土

壱原 一

 

先ほど共有した写真、ご覧いただけたでしょうか。


高画質のスマホで撮った、右上から朝日が降り注ぐ、差し掛かる草葉の瑞々しい豊かな土の写真です。


こういう土で良く育つと、色々しらべてみて回り、家族に車を出してもらって一から作り上げました。


ふっくらと空気を含んで、光を吸い、仄かに温かい、適度に水気を抱え込み、不要な水気はすぐ捌ける、黒々こえた良い土です。


早速みみずの数匹が、耕しに来てくれています。


ちまちま土をつっついて、きっと、食べてくれているのでしょう。緩やかに優しく解されて、風が通り、粒が整って、これは正に準備万端と、喜ばしく写真に撮りました。


そうして共有した写真を、一目でも見ていただけたなら、既にお分かりと思いますが、ここへ大切に植えました。


ほっくりまろい穴を掘って、寝かせるようにそっと置き、掛け布団の如く被せかけて、もう、大切に植えてあります。


一から丁寧に作った、黒々こえた土なので、すぐに芽吹くと思います。


こういう土で良く育つと、方々で請け合われていて、毎日労力を惜しまず、手塩に掛けて作り上げた、豊かな良い土だからです。


目を瞠る速さで育つでしょう。


そしてあなたに会いに行く。


しなやかな手足を振りたくり、豊かな髪を靡かせて、生まれ出でた喜びの叫びと共に、揚々あなたの元へ跳び込む。


あなたに思いを届けるため。


あなたへの思いを伝えるため。


当日、わざわざ謝りにいらしてくださったそうで、とても、とても感動しました。


とてもそれどころではなくて、ちっとも分かりませんでしたが、床に額を擦りつけ、涙ながらに声を張り、様子の投稿を見兼ねた面識のない方々がどうか許してあげてほしいとわざわざ連絡くださるほど、それはそれは丁重に、謝ってくださったそうですね。


家族が無理に追い出したそうで、失礼をすみませんでした。


とても、とても感動して、胸が震え、息が詰まったので、これで忘れようと思います。


豊かな土を拵えて、大切に植えて、芽吹いたものが、目を瞠る速さで育って、あなたの元へ跳び込んだら、後はもう、何も存じません。


こちらの知るところではありません。


先ほど共有した写真、ご覧いただけましたか。


右上から降る朝日を受けた、瑞々しい草葉の奥に、見慣れたグレーの外壁が映り込んでいるのを見ましたか。


そうです。


お宅のお庭ですね。


目を瞠る速さで育っています。



終.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

沃土 壱原 一 @Hajime1HARA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ