第6話 きっかけ

「母さん、行ってきま〜す!」


 オレはいつも通りに家を出る。


 通学路の途中には、昨夜ゴブリンがいた公園があり、よく香織に声をかけられるのはこの辺りなのだが……、その日は何かイヤな予感がしていた。

 オレが公園に差し掛かかった時、突然、公園の中から悲鳴が聞こえた。


「キャァァァー!!」


 良く知っている声、香織だ。


「香織ぃッー!」


 オレはとっさにバッグから短剣を取り出し、急いで公園の中へ走る。すると、そこにいたのは、香織の足を掴んで茂みへ引きずり込もうとしている緑の体をしたゴブリンだった。

 香織は泣きながら必死に抵抗している。そして、オレを見るなり大声で叫んだ。


「創真君、助けてぇぇぇッー!!」


 オレは鞘から短剣を抜くと、無我夢中でゴブリンへ突進する。


「うぉぉぉー、香織を離せぇぇッ!!」


 ゴブリンはオレに気付くと、香織の足から手を離して身構えるが一足遅い。短剣は見事にゴブリンの胸に突き刺さり、オレは倒れ際に刃を根元まで押し込んだ。


 ズブッ、ズブズブズブッ!!


「ギッ、ギィェェェッ!!」


 胸に短剣を刺されたゴブリンは、痛みでのたうち回り、やがて息絶えた。すると、ゴブリンの死体が徐々に霞がかり、やがて消滅した。そして、その後には黄色の小さな魔石が転がっていた。


「うわああー、創真く〜ん!」


 香織が泣きながら抱きついてくる。


「香織、大丈夫か?」


「ううっ 大丈夫、助けてくれてありがとう!」


 香織は大丈夫じゃないらしく、その場に2人並んで座り込む。側には黄色の魔石が落ちており、そっとポケットにしまい込む。

 周りには人集りができ始め、しばらくすると警察官が駆け付けてきた。


「大丈夫ですか? 何があったんですか?」


 オレは正直に答える。


「ゴブリンが香織を襲ったんです。オレがこの短剣でゴブリンを刺したら、ゴブリンが死んで、それで……消えてしまいました!」


「はあ? つまり、ゴブリンは逃げ去ったという事ですかぁ?」


 自分で言っといて何となく分かる。たぶん聞いた方は意味が分からないだろう。

 案の定、警察官はゴブリンの死体がないので、ゴブリンが逃げたと思っている。それ以上に、ゴブリン自体がいたのかを疑っている様で、周りのやじ馬に質問を投げている。


「どなたかゴブリンを目撃した方はおられませんかぁー?」


「……」


 目撃者は誰もいなかった。


 その後、オレ達はパトカーに乗せられ交番で事情聴取を受けた。しかし、全く理解してもらえず、挙句の果には、短剣所持を追求されて逮捕されそうになっていた。

 丁度その時、交番の前に高級車が停まり、中から軍服を着たロマンスグレーのオジサマが降りてくると、警察官全員が敬礼をして出迎えた。


「娘が世話になったね、ありがとう!」


「いえいえ真壁閣下、ご足労をお掛けして申し訳ないです」


 どうやら香織の親父さんが来た様で、警察官達と何やら話している。すると、事情聴取が突然終わり釈放?された。

 交番の外へ出ると、香織とロマンスグレーの親父さんが待っていた。


「大和君、暴漢から娘を守ってくれて本当にありがとう。今はなんと言って感謝すれば良いのやら、後日改めてお礼をさせてもらうよ。本当にありがとう!」


「どう……いたしまして」


 二人は高そうな車に乗って去って行った。


 オレは二人を見送ると、交番近くの小さな公園を見つける。既にお昼を過ぎており、学校へ行くのも面倒なので、公園のベンチに座り母の手作り弁当を食べ始める。


「モグモグ……タケじい、いるかぁ?」


 すると、目の前に心配そうな顔のタケじいが現れた。


「誰も信じてくれんかったのぉ」


「死体も無いし目撃者もいないんじゃしょうがないよ。ところで、ゴブリンの死体が消えたんだけど、どこへ行ったんだ?」


「それはのう、ゴブリンが魔石に変わったんじゃ」


「魔石? どういう事?」


「それはじゃなぁ、魔物の体は魔素でできておってな、死ぬと肉体が魔素に還元され、その後、結晶化して魔石に変わるんじゃ。逆に魔石に生命の水が付着すると魔物が生まれてくるそうじゃ!」


「いまいち、分からないんだが……」


「どう説明したもんかのぉ〜、例えばカップラーメンじゃ。麺を魔石と考えてじゃな、お湯を注ぐと食べられる様になるじゃろ? 反対に乾燥させると食べられん様になるんじゃ!」


「そしたら、この魔石にお湯をかけると、ゴブリンが復活するのか?」


「違う違う、お湯ではない。生命の水じゃ♡」


 タケじいが、いやらしい顔になった。


「とりあえず、分かった事にしておくよ」


「しかし、困ったのう。ゴブリンが東京に現れるとはのう……」


 タケじいが深刻な顔で何やら考えている。


「タケじい、何を心配してるんだ? もう倒したんだし、いいんじゃないか?」


 オレの楽観的な質問に、とんでもない答えが返ってきた。


「それがのぅ、ゴブリンは群れで生きる習性を持っとるんじゃ。だから単独でいるとは考えにくい。おそらく一匹いると、背後に数十匹が潜んでいると考えた方が良いんじゃ!」


「ゴキブリみたいだね」


「違いないのぉ、カッカカカ!」


 今日はとても良い天気だ。お昼ごはんを食べてベンチで横になっていると、暖かい木漏れ日のせいで、いつの間にか眠ってしまった。

 夕方になって目が覚めると、タケじいが現れニコニコしてオレに告げた。


「パンパカパーン!! おめでとう創真、どうやらゴブリンを倒してレベルが2になったようじゃ!」


「レ、レベルってRPGみたいな?」


「そうじゃ。ステータス・オープンと唱えてみるがよいぞ!」


 起きたばかりで頭の回転が鈍くなっていたオレは、言われるがままに唱えてみる。


「え〜と、ステータス・オープン?」


 すると突然、頭の中に衝撃が走り、タケじいとは違う不思議な声が聞こえてきた。


「NetworkArea 二万六千光年 認証!」

「AIQ SupportSystem 起動!」

「今後はステータスを見る事が出来ます!」

「Good Luck!!」


 不思議な声の後には、視界の左隅にレベル2と書かれたステータスが表示されていた。


大和創真 Lv2

魔法障壁 Lv1

ジョブ 商人(アームズ・ディーラー)

スキル

1、英雄遺伝子

2、異世界転移 New


「んんっ……なんだぁこりゃぁぁあ!?」


 まるでゲームの様な画面。子供の頃に慎吾の家でやった事を思い出し、表示された内容を読んでいく。


 まず初めにオレの名前が書いてあり、レベルが2となっている。その下には銃や刃物を防ぐという魔法障壁でレベルは1。その次はジョブ。どうやらオレは商人らしく、カッコに何か書いてある。

 更にその下にはスキル。ゲーム的に考えると『できる事』だと思われる。また、行の頭には番号が振られており、どうやらレベルを表している様だ。

 そして、最初に書かれたスキル『英雄遺伝子』が気になった。


「タケじい、スキルの『英雄遺伝子』って何が出来るの?」


「うむ、スキルの内容を見る時は、そのスキルに視点を当てて、スキルの内容が見たいと念じるのじゃ」


「そのままじゃね〜か!」 


 オレは『英雄遺伝子』の内容が見たいと念じた。



【第6話 きっかけ 完】

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