第5話 謎の剣と謎の爺

 家への帰り道、聞いた話をまとめると、タケじいは一八〇〇年前の英雄でオレはその子孫。そして、英雄遺伝子を強く受け継いでいるらしい。

 太陽フレアがきっかけとなり、オレの中の英雄遺伝子が覚醒し、タケじいが見える様になったという訳だ。

 しかし、タケじいが見えるからといって、何か良い事でもあるのか?

 まぁ助言は何度かしてもらったが、それ以上にうっとうしい。

 オレが考え事をしていると、いつの間にかタケじいが視界から消えており、おそらく意識を集中している時にだけ見える様だ。


 タケじいのオンオフを試しながら歩いていると、いつの間にか家に着いていた。


「ただいまぁ〜」


「あら創真、おかえりぃ〜」


 彼女はオレの母親、大和美智子。


 オレが小さい時に父が病気で亡くなってから、女手一つで育ててくれた。貧乏ではあるが母の愛情に包まれてオレは幸せだ。

 そして、いつか母に楽な暮らしをさせてやりたいと思っている。


「母さん、腹減ったぁ〜」


「まあ創真ったら! 晩ごはんが出来てるわよ。早く手を洗って来なさい」


 オレが食卓につくと、母が嬉しそうな顔をしてご飯と味噌汁をよそってくれる。


「創真、今日はごちそうよ〜! 店長がね、賞味期限が今日だからって、ささみをただで下さったの。いっぱいあるから沢山食べてね〜!」


 テーブルの上には鶏のささみ揚げが山盛りとなっていた。


「うわ〜母さん、これ美味いよ!」


「そ〜お、嬉しい〜!」


 和やかな親子の会話の中、オレは母さんに聞きたい事があった。


「母さん、大和家の先祖に英雄とかいたりするのかなぁ?」


 母は少し考えると、何かを思い出し手を叩く。


「家系図は知らないけどね、お父さんの形見があるわ、見てみる?」


「うん!」


「ちょっと待っててね」


 母は押入れをゴソゴソ探し、立派な桐の箱をテーブルの上に置いた。

 フタを開けると、中にはみすぼらしい短剣が入っており、短剣の柄には小さな宝石が埋め込まれ、とても綺麗な輝きを放っている。


「これが何かは知らないけどね、お父さんが先祖代々受け継いできた物なの。創真が成人したら渡そうと思ってたのよ」


「この短剣が英雄と関係あるのかなぁ?」


「う〜ん、それは分からないわ。だけど、お父さんは絶対に手放すなって言ってたわ!」


「母さん、これを借りてもいい?」


 母は少し考えた後、オレの目を見て真面目に話す。


「借りるも何も、ちょっと早いけど創真に渡すわ。だけど、絶対に手放してはダメよ!」


「分かったよ母さん。ありがとう!」


・・・・・


 オレは自分の部屋で短剣を眺めている。長さは日本刀の半分。両刃なので西洋の剣の様だが、なぜ西洋の剣が大和家に代々受け継がれてきたのだろうか?


「タケじい、いる?」


「なんか用か?」


 視野の端に、寝そべってマンガを読んでいるタケじいが現れた。


「何してるんだ?」


「見て分からんか? 休憩しとるんじゃ!」


 相変わらずふざけたじじいだ。遺伝子が休憩するんか〜い! とツッコミを入れたい所だが今はいい。オレは短剣を鞘から抜いた。


「タケじい、ちょっとこれを見てくれないか?」


「ややっ、どこからそれを?」


 タケじいが驚いた顔で短剣を見つめる。


「父さんの形見なんだ。大和家に代々受け継がれている物らしい」


「なんとっ! 懐かしいのぉ〜。一八〇〇年ぶりじゃ!」


 惚れ惚れする眼差しで短剣を眺めるタケじいに、オレは次々と質問する。


「ええっ? この短剣は一八〇〇年間受け継がれてきたって事か? サビひとつないんだけど……」


「それはのう、柄に魔石が埋め込まれているからじゃ」


「魔石?」


「なんじゃ魔石を知らんのか? ずいぶんと時代が変わったようじゃ。では説明してやるかのう……。魔石とは魔力が詰まった石じゃ。魔物を退治したらドロップされるぞ。 例えばゴブリンとかな!」


「ええっ! ゴブリンって魔物だったのぉ?」


「そうじゃ。ゴブリンは異世界から来た魔物じゃよ。そして、その短剣は異世界で作られた武器じゃ!」


 ゴブリン、短剣、異世界……という事は!?


「もしかして、この短剣ならゴブリンを倒せたりするのか?」


「その通りじゃ! 異世界の魔物は異世界の武器でしか倒せんぞ。ワシも最初は苦労したもんじゃ……」


 腕を組んで想いにふけるタケじいに、更に質問を重ねる。


「それは一八〇〇年前の事なのか?」


「う〜む、せっかくじゃ。創真には当時の出来事を教えておこうかのぉ……」


 タケじいは遠くを見つめ、何かを思い出す様に語り始めた。


「今から一八〇〇年前、女王卑弥呼様が日本を治めていた時代じゃ。地球に強力な電磁波が降り注ぎ、今と同じ様に夜空が真っ赤なオーロラに包まれた。それから異変が起こり始めたのじゃっ!」


「ゴブリンが現れたとか?」


「そうじゃ。ヤツらは魔法障壁をまとっており、こちらの武器が全く効かんのじゃ。そこでワシは卑弥呼様の命により、魔法障壁を貫く武器を探す旅に出たんじゃ。それはそれは困難な旅じゃった……」


 当時の事を思い出し険しい顔になるタケじいに、オレは結末を急かす。


「それで、武器は見つかったのか?」


「うむ。ワシらは度重なる苦難の末に、ようやく異世界の武器を手に入れ、ゴブリンどもを撃退したんじゃ!」 


「なるほどっ!」


 ようやく全ての謎が繋がった。ゴブリンは異世界の魔物なので、異世界の武器でしか倒せないという訳だ。

 そして、ここにある短剣こそが、ゴブリンを倒せる唯一の武器という事だが、これ一本でいったい何ができるのだろうか?


「創真よ、そういう訳で、明日から外出する時はその短剣を持ち歩くのじゃ」


 オレは頷いて、短剣をスポーツバッグにしまった。



✒️✒️✒️

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【第5話 謎の剣と謎の爺 完】

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