第2話 凶悪なゴブリン

 翌日、地元警察が捜索隊を組織した。警察官二〇名、消防隊員二〇名、ボランティア二〇名、総勢六〇名で桜島の捜索が開始された。

 海岸から山に向かって、岩場、空家、林を捜索したが、その日は女性を発見する事が出来なかった。


 各テレビ局は、こぞってニュースに取り上げる。


「昨日、某テレビ局の女性スタッフ一名が桜島での撮影中に行方不明となりました。地元警察の捜索隊六〇名が桜島を捜索しましたが、女性は未だ見つかっていないようです。ゴブリンに攫われたという情報も入っていますが、真相はまだ分かっていません!」


 この事件を受けてネットの意見が二つに割れた。


>>これヤバくない?

>>ゴブリンって女にアレするんだよな?

>>バカ言ってんじゃねーよ。ただの迷子だよ。

>>ちげーよ。宇宙に連れて行かれたんだよ!

>>妖精の国へ行ったんじゃね?


 二日目、捜索隊は山の捜索を始めた。桜島は活火山なので大小様々な洞窟が点在し、まるでダンジョンの様相を呈している。それ故、捜索は難航するかにみえたのだが、三つ目の洞窟であっさりと女性を発見した。


「助けに来ましたぁ、大丈夫ですかっ?」


「ひぃぃぃ~、%#〆×¥・・・!」


「一体、何があったんですかッ?」


「コロシテ、コロシテ、コロシテェェ゙!」


 女性は衣服を着ておらず発狂していた。

 何を聞いても女性は「コロシテ」しか言わず、捜索隊が女性に毛布を掛けて山を降りようとした時だった。


「ギキィ!」


 周囲から聞いた事のない声が次々と飛び交い始める。


「ギキャッ! ギキギキィ! ギキャッ!」


 捜索隊が周りを見渡すも姿は見えない。


「何かに囲まれているぞっ!」


 捜索隊の隊長が警戒を告げた時、林の中からゴブリンが顔を出した。


「ギㇶギㇶ!」


 その顔は、今までテレビで報じられていた子供の様にあどけない顔ではなく、凶悪で、まさに化け物の顔で笑っていた。

 それから、次々と凶悪顔のゴブリンが姿を現し捜索隊を囲んでいく。その数三〇匹、手には棍棒を持っている。


 捜索隊の数は六〇人でゴブリンの二倍。それに、ゴブリンの背丈は一五〇センチ足らずで人間よりも遥かに小さい。おまけに、こちらは銃やナタを持っている。

 隊長は勝てる算段が付いたのか、応戦する事を決めて隊員達に告げる。


「武器を構えろっ、襲って来たら撃て!」


 各々が緊張した面持ちで武器を構えた時、ゴブリン達が奇声を上げて一斉に飛び掛かってきた!


「ギキィー!」


 パン! パパン! パパパーン!


 警察官二〇名が一斉に発砲し、ほぼ全てが命中したかに見えたが、ゴブリン達の動きが止まらない。

 続けて二発目を発砲するが、確かに命中したにもかかわらずゴブリンの動きが……、やはり止まらない。

 やがて、ゴブリンが目の前に迫り棍棒を振り降ろす。


「ギキィ!」


 バキバキバキッ!


 警察官以外の隊員達も応戦するが、棍棒の威力でナタが吹き飛ばされる。そして、武器を失くした隊員は、棍棒で頭を殴られて脳ミソが飛び散り、無惨な姿になっている。


「ぎぃゃあぁぁぁ!」


「助けてくれぇぇぇ!」


 その惨状を見た隊長は、大声で叫ぶ。


「て、撤退だぁ、皆んな逃げろぉぉぉ!」


 隊長に続いて隊員達も逃げ出すが、ゴブリンの追撃を受けて次々と倒れていく。そして、麓にたどり着く頃には、六〇名いた捜索隊がわずか十一名になっていた。


・・・・・


「何かあったんかい?」


 麓の住人が、満身創痍の隊長にペットボトルのお茶を差し出す。


「ハァハァハァ……ゴブリンが出た……は、早く逃げろっ!」


「はぁ?」


 住人達は不思議そうな顔で、お茶を喉に詰まらせている隊長を見て笑い出す。


「アハハハ、あんた何を今更。ゴブリンはいるに決まっちょるでねえかぁ!」


「ゲホッゲホッ……ゴブリン三〇匹、襲ってきた……半数の隊員が殺された……は、早く逃げてくれっ!」


「ハッ、なに言ってんだ。あのめんこいゴブリンが人を襲うなんてありえね。あんた幻でも見たんでねぇか?」


「なっ……我々は本部に戻り、ゴブリンの襲撃を報告します。あなた方は一刻も早く島を離れて下さい。どうかお願いします……」


 どうにも通じない住民に説得を諦めた隊長は、必要事項を告げると生き残りの隊員を船に乗せて逃げる様に桜島を離れた。


 幸いにも、ゴブリンが麓まで追って来る気配は、今の所ない様だった。


・・・・・


 捜索隊が本島へ戻る頃には日も落ちて暗くなっており、港には多数のパトカーや救急車が待機していた。

 港に着くと、隊員達は救急車で病院へ搬送されたが、隊長だけは鹿児島県警へと連行され事情聴取を受けた。


 隊長の名は加藤。鹿児島市警に勤める田舎の中間管理職だ。過去に遭難者の捜索を指揮したくらいで、戦闘の経験など皆無に等しい。

 加藤は医務室で簡単な手当てを受け会議室に通されると、そこには県警幹部の面々が待ち構えていた。


「加藤警部、何があったのか報告したまえッ!」


「はい、ゴブリンが……」


 加藤は事の一部始終をありのままに報告した。


「銃が効かないなどありえん! それに、一五〇センチの小さな体で、頭蓋骨を叩き潰すほどの怪力だとぉーッ?!」


「ですが、全て真実です。捜索隊四九名が命を落としています!」


 県警トップの園田本部長は頭を抱え困惑していたが、しばらくすると、考えがまとまったのか皆に告げる。


「加藤君は自宅に戻って休みなさい。但し、必要になれば呼び出すので、その時はすぐ出頭する様に。幹部諸君は一〇分後に対策会議を開きます。解散!」


 その後、深夜まで緊急対策会議が行われ、翌日に記者会見が開催された。



【凶悪なゴブリンのイメージ画像】

https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/ljIvzerf


【第2話 凶悪なゴブリン 完】

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