新米のアームズ・ディーラー

大和タケル

第1章 ゴブリンの恐怖

第1話 序章〜桜島の異変

 二〇三〇年春。


 人類は過去最大の太陽フレアを観測。数日後、巨大なプラズマが地球を襲った。

 雲一つない晴天に稲妻が走り、闇夜の空が真っ赤に染まった。

 この異様な光景に、世界中の誰もが、この世の終わりを感じたに違いなかった。


 一方、日本では数日の停電が起きたものの大した影響は無く、誰もが胸をなで下ろしたのだった。

 しかし、桜島では人知れず密かに異変が起こっていた。


・・・・・


 ある日、ネットの書込みに桜島で緑色の未確認生物ユーマを見たとの情報が流れた。

 更に複数の目撃情報が寄せられ、噂が噂を呼び、お昼のワイドショーで現地リボーターと中継を繋いでいた時の事である。


「みなさ〜ん、こんにちわぁ! 私はネットで話題のユーマの存在を確認する為、ここ鹿児島県桜島に来ておりま〜す! こちらにお呼びしているのは、一週間前にユーマを目撃したという、さつまいも農家の川辺さんです。川辺さん、ユーマを目撃した時の事を教えて頂けますかぁ?」


「はい、あれは午後三時頃でした。ワシが芋を植えてっと、あの木の影から顔が見えたとです。最初は近所の子供かなぁと思いもしたけど、肌の色が緑じゃったとです。見間違げかと思って、お~いぼうずぅ? と声をかけっと、驚いて林の中へ逃げていきもした! 今思えば悪りぃ事したかなぁ?」


「肌の色が緑だったんですね! そして身長は子供くらいで臆病といった特徴ですね。それからは見ていませんかぁ?」


「はい、見ちょらんとです」


 その時、撮影スタッフから声が上がった。


「いたぁー、木の上ッ!」


 カメラが木の上を映し出すと、緑の肌で子供のようにあどけない顔をした、まるで妖精の様なユーマがテレビ画面一杯に映し出された。

 これを契機に、ユーマの存在が日本全国に知れ渡り、いろんなメディアがユーマを取り上げていった。


『不思議バラエティー、桜島に潜む緑の宇宙人を探せ、磁気嵐で桜島にUFO墜落!?』


『報道特集、緑の妖精は実在するのか? 火の妖精マグニョンも登場、奇跡のコラボ!』


『時事討論、あれはサルの新種? はたまた古代生物の生き残りか? 今真実が判明!』


『ネットランキング、ゴブリンが異世界転生? ようこそ日本へ!!』


 日増しに増えるユーマの番組。


 日々注目を集めるユーマを、あるバラエティ番組では『宇宙人』と呼び、ある報道番組では『森の妖精』と呼んだ。

 しかし、圧倒的多数を占めたのがネットの声で、アニメに出てくるゴブリンが最も似ているという理由で『ゴブリン』と呼ばれる様になり、やがて一大ブームが巻き起こった。


 ある番組の目撃コーナーでは、小さな女の子がテレビでインタビューを受けている。


「私はゴブリンさんにお菓子をあげたの。そしたら、ありがとうって喜んでたの〜!」


「今日のゴブリン情報でした。最近ほのぼの遭遇が多いですねぇ。東京都お住いのリエちゃんにはゴブリンのぬいぐるみをプレゼントしま〜す!」


「うれしぃ〜!」


 ホントかウソか分からない情報が絡み合った結果、いつしか『宇宙から来た森の妖精ゴブリン』というイメージが定着していた。


♠♠♠♠♠


「なぁ創真、昨日のネットニュース見たかぁ?」


「見てねぇよ、俺がスマホ持ってないの知ってるだろ?」


 オレは大和創真ヤマトソウマ、都立東大和高校に通う高校三年生一七才。そして、彼はオレのクラスメートで相模慎吾サガミシンゴ。小学校からの腐れ縁でオレの情報元……もとい親友だ。

 オレは母と二人暮らし。いわゆる母子家庭で、あまり裕福ではない……いや正直に言おう、はっきり言って貧乏だよっ!

 だから、高校三年にもなって携帯電話を持った事がない。スマホも持っていないオレが、今まで上手くやって来れたのは親友の慎吾がいたお陰である。


「いゃ〜ごめんごめん。そうだったなぁ!」


 分かってるくせに、いつも慎吾が言う決まり文句だ。


「隣のクラスの女子がさぁ、一昨日ミンミンに街頭インタビューを受けたんだって。その動画がネットニュースに流れちゃって、学校で大騒ぎになってんだっ!」


「興味ねーよ」


「まぁそう言うな、ちょっと見てみな!」


 慎吾がスマホ画面をオレに見せ、動画を再生する。


「こんにちはぁ、ゴブリンコレクターのミンミンで〜す。今日は渋谷でステキなゴブナーを発掘したいと思いま〜す!♡」


 彼女はネットで人気のユーチューバーだ。世の中のゴブリンフィーバーに便乗して、ゴブリンコレクターを名乗っており、今や数本のテレビコーナーを持っている。


「あっ、あの子に聞いてみましょう! カメラさん、こっちこっちぃ!」


 そこに映し出されたのは、隣のクラスの女子ジョシだった。名前は知らないが、派手好きで有名なので顔は知っている。

 服装はセンスが良くてオシャレなんだが、持っている小物が違和感を漂わせている。

 ゴブリンが刺繍されたバッグを持ち、携帯ストラップはゴブリン人形、ゴブリン時計云々。

 おまけに素敵なベレー帽の上部には、大きなゴブリンが描かれている。隠しアイテムのつもりなのかぁ?


「すみませ〜ん。ちょっとお話ししてもいいですかぁ?」


「えええっ、ミンミン!?」


「今ね〜、テレビの番組で〜、街角のゴブナーを探せってコーナーなんだけど〜、素敵なゴブナーを探してたら〜、あなたを見つけたのよ〜。お話ししてもいいかなぁ〜?」


「感激です! なんでも聞いて下さい!!」


 派手好きな隣のクラスの女子は、嬉しそうにベラベラと喋っていた。


♣♣♣♣♣


 それから一週間後、桜島での撮影中に、特集を組んだテレビ局の女性スタッフ一名が、ゴブリンにサラわれるという事件が起こった。




✒️✒️✒️

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【大和創真のイメージ画像】

https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/K9cRfVEo


【妖精の様なゴブリンのイメージ画像】

https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/NFvQ9hJJ


【第1話 序章〜桜島の異変 完】

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