雄大と僕 四
坂上と別れた後、僕が家に帰ってからスマートフォンを取り出すと、雄大からメッセージが来ている事に気が付いた。
『小説、全部読んだ』
雄大が送ってきたメッセージには短くそう書かれていた。
恐らく詳しくは電話で話すという事なのだろう。
そう考えた僕は椅子に腰掛けると、雄大に電話を掛けた。
「おう、智也。坂上さんとのデートはどうだった?」
「……まぁ、楽しかったよ」
挨拶も無しに尋ねてきた雄大に僕が呆れながらそう答えると雄大は、「だろうな」と、呟いた。
その含みのある言い方が気になった僕が、「……どうかしたの?」と尋ねると、「智也が途中まで書いた小説を全部読んだよ」と、言葉が返ってきた。
急な話題の変化に戸惑いながら僕は、「えっ? ああ。昨日送ったのに早いね」と、雄大の話に合わせて言葉を返した。
「……その、智也はどういう気持ちで小説を書いたんだ?」
「……気持ち? それは撮影現場で坂上さんの演技を見て、僕もまた坂上さんと同じ様に小説で自分を表現したいと思ったから、その気持ちを小説で表現しているつもりだよ」
「……そうだよな。まだ冒頭だけだけど、それでもその気持ちは俺にもすごく伝わってきた。でも、それ以上に……」
雄大はそう言うと、言葉の続きを話す事も無く黙ってしまった様だった。
「雄大、どうしたんだよ。さっきからなんか歯切れが悪いよ?」
「いや、なんというか。智也にとって、坂上さんは憧れの様な存在って感じか?」
どうしてそんな事を聞くんだ。
そんな事を思いながらも僕は自分の気持ちを整理しながら、「そうだね。坂上さんのお陰でまた小説を書こうと思う事が出来た訳だし、憧れっていうのもあるけど、恩人とかそういう存在の方が近いかな」と、雄大に答えた。
そしてそう答えた後に雄大相手に何を言っているのだと恥ずかしい気持ちになった。
「そ、そうか。俺には智也が坂上さんに対してそれ以上の気持ちを持っている様に、小説を読みながら俺は感じたんだが……」
「それ以上ってどう言う事?」
雄大の言っている言葉の意味がよく分からなかった僕が尋ねると雄大は、「いや……」と言いながら、首を横に振った。
「多分、俺から言う事では無いから……」
そう言うと雄大は自分から自分から話題を振ったのにも関わらず黙りこんでしまった。
この話をこれ以上続けても仕方が無い。
「それで、結局、小説の方は面白かったの?」
僕が話題を変えた事に安心をしたのか、雄大はそっと息を吐くと、「すごく智也の気持ちを感じて面白く読めたよ」と、感想を言った。
「そうか、それなら良かった。誤字脱字だったり、文章がおかしな所はあった?」
「そうだな。勢いで書いたからか、所々間違えていたり、おかしな所があったから直しておいた。後で送っておく」
やはり雄大は頼りになる。
そう思った僕は、「ありがとう」と、雄大にお礼を言った。
「今も続きを書いているのか?」
「今帰ってきたから、これから書こうと思っていたところ。明日も出掛けるからペースは落ちるかもしれないけど、また読んで欲しい」
「ああ、それは勿論。それで、明日も坂上さんと出掛けるのか?」
「うん。今日出掛けた時に明日開催の祭りのポスターが貼ってあるのを見つけて、坂上さんが行きたそうにしていたから誘ったんだ」
「……そうか、気を付けて行ってこいよ。小説はいつでも読むから」
少しの間が気にはなったが僕は雄大の言葉に、「ありがとう」と返すと、通話を終えたのだった。
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