雄大と僕 一
坂上と朝食を共にした次の日。
昨日は帰ってから一眠りした後、夜遅くまでゲームで遊んでいた僕は昼前に起きた。
完全に昼夜が逆転してしまっている。
そう思いながらスマートフォンを確認すると、メッセージが一件来ていた。
見てみると、友人である北川雄大から、『暇だ〜』と、送られてきていた。
僕は
メッセージを開くのが早いな、と思っていると、『智也、起きるの遅すぎ』と、言葉が返ってきた。
『昨日一緒に遅くまでゲームをしてたじゃん』
『俺は、親が仕事行く前に叩き起こされたから早起きなんだよ』
それは、智也の力では無く親のお陰だろう。
そう思っていると、続けてメッセージが送られてきた。
『それはそうと、これから昼ご飯を食べに行こうぜ』
話をするなら別にチャットや電話でも良いではないのかと一瞬考えたが、それだと外に出てる機会がほとんど無くなってしまうだろう。
それは流石に不健康過ぎる、と思った僕は、母が何か食べ物を用意していないかを確認する為に台所に向かった。
台所のテーブルには何も無かったので、ご飯は自分で用意しろと言う事なのだろう、と思うと、『良いよ、何処で食べる?』と、雄大にメッセージを送った。
するとすぐに、『いつもの喫茶店で。俺はすぐに出るから早く来いよ』と、メッセージが返ってきた。
『分かった』
僕はそれに短く返信すると、早速出掛ける準備をする為に、スマートフォンをしまって洗面所に向かったのだった。
準備を終えて、家の近くの喫茶店に入るとすぐに、見慣れた後ろ姿を見つけた。
雄大とは幼稚園から一緒のいわゆる幼馴染なのに加えて、背が高いのですぐに分かる。
「おはよう、雄大」
僕がそう声を掛けながら雄大の前に座った。
「『おはよう』って、もう昼前だぞ」
そう言いながらメニュー表を渡したきたので、受け取りながら、「まだ起きてから一時間経っていないから朝なんだよ」と言葉を返すと雄大は、「とんでもなく自分勝手な考えだな」と言って、苦笑いをした。
それからメニュー表を見て食べたい物を決めると、僕は注文をする為に顔を上げると雄大が、「頼みたいの、決まったか?」と、声を掛けてきた。
それに僕が頷くと、雄大が手を挙げて店員さんを呼んでくれた。
そして、僕が食べたいメニューを伝えると、その後、雄大も注文をし始めた。
どうやら僕が来るまで注文をせずに待っていてくれたみたいだ。
「先に頼んでいても良かったのに」
「別に早く食べる必要も無いしな。時間もたくさんある訳だし」
そう言われると、確かに急ぐ必要もない。
「確かに、そうだね」
僕がそう言葉を返した直後に店員さんが僕達が注文した物を運んで来てくれた。
僕と雄大はお礼を言いながら受け取ると、手を合わせて、「いただきます」と言って、食事を開始した。
「智也、何か面白い事はないか?」
昨日もチャットをしながらゲームをしていたのだから、そんなにすぐに面白い事なんか起こる訳がないだろう、と思ったが、そう言えば昨夜はゲームに夢中になり過ぎて、坂上との話をしていなかった事を思い出した僕は、「そう言えば」と、呟いた。
「おっ、ダメ元で聞いたのになんかあるのか?」
まさか、本当にあるとは思わなかったのだろう。
そう言って驚いた表情を浮かべた雄大に、「僕にもよく分からない事なんだけど」と前置きをした後に、昨日の坂上との出来事を話した。
僕の話を黙って聞いていた雄大は話が終わると呆れた表情を浮かべた。
「……それはなんでいうタイトルのライトノベルなんだ? それとも漫画?」
どうやら信じて貰えていないらしい。
まぁ、僕だって突然雄大にそんな事を言われたら同じ言葉を返す自信があるし、仕方がないだろう。
「ライトノベルや漫画の内容ではなくて、本当の話だって」
僕の言葉に雄大は、「分かった、分かった」と両手を開いて、宥める様に言うと、「それで、その子とは次いつ会うんだ?」と、面白そうに尋ねてきた。
「次?」
雄大の質問の意図が分からず、僕がそう聞き返すと、雄大は再び呆れた表情を浮かべた。
「その子は可愛かったんだろう? それなら次に繋げないと」
雄大の言葉を聞いてようやく質問の意味が分かった僕は、「坂上さんとはそんな感じではなかったよ」と、片手をヒラヒラと振りながら答えた。
「つまんないなー」
雄大は力無くそう言うと、何かを思い出したかの様に、「あっ」と、呟いた。
僕が視線で、どうかしたの?、と尋ねると、それを理解したのか、雄大は頷きながら口を開いた。
「智也、その坂上さんだっけ? とにかくその人との出来事を小説にしてみたらどうだ? 最近書いてないだろう?」
「……嫌だよ。面倒臭いし」
「……そうか、智也の書く話は面白かったから残念だなぁ」
嫌そうに言った僕の言葉に、雄大が寂しそうに言葉を返すと、ここまで続いていた会話がそこで途切れた。
「まぁ、もしかしたらその人からまた連絡が来るかもな」
軽い調子で言った雄大の言葉に、「それこそ無いよ」と僕も軽い調子で返すと、そのタイミングでポケットに入れていたスマートフォンが振動した様な気がした。
誰からの連絡だろう。
そう思いながら、ポケットからスマートフォンを取り出して画面を見ると、坂上からメッセージが来ていると通知があった。
「智也、どうかしたか?」
僕が驚いた表情を浮かべているのを不思議に思ったのか、声を掛けてきた雄大の言葉に僕は顔を上げた。
そして、まじまじと雄大の顔を見ると、雄大は、「な、なんだよ」と言って、慌てた様な表情を浮かべた。
「……雄大、未来が見えるとか未来から来たとかないよね?」
「……それこそ、なんのライトノベルだよ」
雄大は呆れた様な表情を浮かべながら、「それで、何があったんだよ。親御さんから連絡とか?」と、尋ねてきた。
僕は話すかどうか迷ったが、話の流れもあるし、ここで誤魔化しても雄大のことだからしつこく聞いてくるだろう。
「……さっき話していた坂上さんからのメッセージが届いた」
僕が小声で言うと雄大は、「……本当か!?」と言って、大きく目を見開いた。
雄大の疑う気持ちは良く分かった。
実際、僕も本当に坂上からのメッセージなのかと何度も名前を確認してしまっていた。
「本当みたい」
「それで、なんて書いてあったんだ?」
僕が呟くと、興味津々といった様子で雄大が尋ねてきた。
まさか坂上からメッセージが送られてくるとは考えておらず、その事で驚いてしまっていた僕は、雄大の言葉でまだ内容を見ていない事に気が付いた。
「今から見てみる」
僕はそう言うと、坂上の名前をタッチしてトークルームを開いた。
『宇多川君、褒められたところもあったけど、それはデートじゃ無くて、食事だって言われたよ!?』
そのメッセージを見て、まったく意味が分からず頭を抱えた。
とにかく、問題は誰かにデートでは無いと否定されてしまった事だろう。
そう思っていると、頭を抱えた僕を見て心配になったのか、「何か不味い事でもあったのか」と、声を掛けてきた。
「昨日のが、デートでは無くてただの食事ではないかって言われたらしい」
「誰に?」
「…‥分からない」
「……なんだそれ?」
「……僕も雄大と同じ気持ちだよ」
僕はそう言いながらなんて言葉を返そうか、と頭を悩ませた。
その結果、『坂上さんがデートだと思ったらデートだよ』という、文字を打ち込んだ僕自身にも何とも言う事が出来ない文章を送信すると、すぐに返信が来た。
『そうかもしれないけど、みんなが納得出来るデートじゃないと駄目なの』
だから、それを言っているのは誰なのだ、と思っていると、坂上から続けてメッセージが送られてきた。
『そういう訳だから、今からデートしよう!』
「今から!?」
坂上からのメッセージに驚いた僕がつい声を上げると雄大が、「今から会うのか?」と尋ねてきた。
「そうみたい」
僕がそう答えている間にも、『昨日、朝ご飯を食べたお店の近くの駅で集合ね』と、メッセージが送られてきている。
これは断れる雰囲気ではないぞ、と僕が思っていると雄大が、「……行ってきたらどうだ?」と、呟いた。
「えっ、でも」
それでは雄大に悪いではないか。
そう思って雄大の顔を見ると、「俺とはいつでも会えるだろう」と言って、軽く笑った。
「……ありがとう」
断れる雰囲気ではないし、何が起こっているのかを知りたい、と思った僕は雄大の言葉に甘える事にした。
僕がお礼を言って、立ち上がろうとすると、「あっ、ちょっと待ってくれ」と、雄大が慌てて言った。
どうしたのだろう、と思っていると雄大が、「自分の食べた分のお金は置いていってくれ」と、呟いた。
「……それが無かったら格好良かったのに」
「いや、お金を置いていくのが当たり前だろ」
そうして、互いに顔を見合わせると、笑い声を上げた。
「後で結果を報告してくれよ」
雄大の言葉に僕は片手を挙げて答えると、集合場所に向かう為に店を後にしたのだった。
次の更新予定
道で泣いていた女子に声を掛けたらデートに行く事になった。 宮田弘直 @JAKB
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