アル中OL、飲酒動画のVLOGを上げて無事炎上。

柊准(ひいらぎ じゅん)

第1話 アル中とVLOGは不釣り合い

 新人OLである赤坂峰子は、仕事終わりの一杯(晩酌)が好きだった。今日はどんなビールを飲もうか。はたまた焼酎で酔いしれようか。

 今日も始まる、酔い三昧。


 帰宅後、疲れた体でソファに寝転んで、嘆息をつく。

 はあ。疲れた。


 そして自然な流れでスマホで動画サイトを閲覧する。可愛い猫ちゃんの動画を「なんて天使」とか独り言をぼやきながらかれこれ一時間。ふと時計を見遣ると短針が八を刺していた。そういえば腹が減ったな。


 よし! と意気込んでソファから立ち上がりキッチンへと向かう。1LDKの室内で、独り暮らしには少し大きめの冷蔵庫を開けて、中を物色する。どれどれ……鳥肉の足か。オーケー、だったら鳥の手羽先でも作ろうか。そう思い立ち、棚の上からまな板と包丁を取り出して鳥の足を丁寧に切っていく。そしてそれに胡椒を振りかけ、火を付けたフライパンに置く。(そこで重要なのは焦げないように足をフライパンの淵に置くこと。なるべく中心から遠ざけることがミソだ)


 しばし待っている間にアサヒスーパードライっを開けて一息に飲む。


「ぷふぁっ。これなんだよな~」


 独特の爽快感とこの喉越し。たまんないんだよなあ。

 ジューパチパチとフライパンの中から楽しげで食欲をそそるワルツが聞こえてくる。


 時間が経ったら手羽先をひっくり返してそれから数分。それをスヌーピーの皿に盛り付けて、「あっ、そうだ」と思いつくままにブロッコリーを何とはなしに同じく皿に乗せた。


 そして、焼酎にコーラを割って入れてそれを一気飲みする。胸が高揚するような、そして高まった鼓動になぜか落ち着く。


 手羽先を齧って、咀嚼すると適度な弾力と塩加減に恋い焦がれてしまう。

 そんな鳥さんに花束の意味で盛り付けたブロッコリーも口に運び、コーラ焼酎をぐびっと再び飲む。


「ごちそうさまでした」


 今日も満足な、酒カスOLの日常。たまんないよ。



「あんた毎日酒なんか飲んでんの?」



 翌日。昼食後にトイレの鏡で化粧直しをしていると、一緒にそうしていた同僚の青峰加奈がそう言った。



「うん。昨日なんか手羽先おかずに焼酎飲んじゃった」



「焼酎って度数四〇度でしょ。あんたはおっさんか! 手羽先肴にして焼酎飲むなんてまさしく中年のおっさんだわ」



 そんなことを言われたもんだからアイラインを描く手元が狂いそうになってしまう。



「馬鹿なこと言わないでよ。私のどこがおっさんなのよ。休日の趣味はビール飲みながらテレビで競艇観戦ぐらいなのに!」



「もうその発言がアウトなのよ。このおっさん」


 まったく、ひどい言われようだと思った。峰子はご立腹だと加奈に伝えたくて、彼女の足を踏んづけようとする。がそれを躱されて逆にピンヒールのつま先で踏まれた。「痛っ」と思わず声が出てしまう。



「そんなに酒が好きなら、あんた美人だし飲酒動画をユーチューブに上げたら?」



「えっ、確かそういうのVLOGって言うんでしょ。人気出るかな」



「もう人気の事とか考えてる……そんなに意欲的ならやってみたらいいじゃない」



「そうね。そうするわ」



 化粧直しを終えて、上機嫌でトイレから出た。後ろから「単純なんだから」と聞こえた気がしたが、気のせいだと思っておこう。



 そして会社は就業時間を迎え、退社した峰子は駅前の家電量販店に立ち寄っていた。



「これでいいのかな」



 撮影道具のカメラなどはスマホでいいにしろ、それを固定する台があったほうがいいと思い、購入に至った。横幅四十センチ。縦幅一メートルの機材は、担ぐだけで重たかった。



 家に帰り、「ただいまー」と声を出すが当然独り暮らしのOLのこの行為は返事ではなく虚しさだけが返ってくるだけだ。早く彼氏作りたいな。それか猫でも飼いたいんだけど、そうしたら一生独身のまま生涯を終えそうな予感がしてしまうのだ。偏見かな?



 実は寄っていたコンビニで購入した缶ビールを早速冷蔵庫の中に入れる。

 そしてシャワーを浴びて気分と体がすっきりしたら、コンビニで買ったカップの二郎系ラーメンを電子レンジで温めて、それからそのラーメンの蓋を開けて、テーブルに置く。



「あとはっ、ビール、ビール」

 冷蔵庫からビールを取り出して、それを開けてグラスに注ぐ。(もちろんグラスも冷やしていた)そして撮影機材を準備してスマホのカメラ機能をオンにする。




「えっと。どうも~酒カス峰不二子チェンネルへようこそ! この動画は、モンキーパンチ先生の峰不二子のような美人な女性であるこの私が、酒と愚痴と肴を片手に世界を盗む(視聴回数を増やすという意味で)ものでーす。じゃあ早速、動画の奥のエッチな変態おじさんへ、カンパーイ」



 我ながら下手な動画コンセプトだとは思うが、これぐらいしか思いつかなかった。ごめんなさい。モンキーパンチ先生。



 それから肴と酒も進み、VLOGは無事終わった。

 峰子は最後に頭と最後だけパソコンで動画編集によって切り落とし、有象無象のネットの海に投下した。

 そして、あくびを噛み殺し、ベッドにダイブしそのまま眠った。


 翌日。動画が炎上していた。

≪これのどこがVLOGだよ≫

≪このアル中女≫


 私は執拗な攻撃文を見て、感じた。


 ああ、気持ち良いと。


 あっ、マゾじゃないからね。違うからね‼


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アル中OL、飲酒動画のVLOGを上げて無事炎上。 柊准(ひいらぎ じゅん) @ootaki0615

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