ぬらりひょんの御気分に

くうき

第1話 ぬらりひょんは何でも屋

 遥か昔の時代………一人の人間が生まれたことにより物語は始まる。


 彼は、一つの物語を紡ぎ始めていく。一つの物語の一言一句に言霊宿っていく。


 物語は100個を数える。そして最後の内容は、余りにも奇天烈で、壮大なものが語られた。


 そうして、数百年の時が流れて、現代となる。かつて、平安の都で跋扈していた妖は、陰陽師と呼ばれる胡散臭い存在との争いを引き分け、夜の秩序を守るものとして意味が変わり果てた。


 そうして、東は土御門、西は天満と袂を分け脈脈と血を受け継いでいった。


 物語は、現代。ヘンテコな存在たちが蔓延り、命の重さも、秩序も道徳も何もかもがちぐはぐな世界。極東の島国である日本、宮城にある長屋敷。そこにいる若い妖が一人、店頭で、欠伸を一つするところから、日常は始まる。


「あぁ~、今日はいつにもまして暇だな~。」

「鯉様、流石に頬杖してばっかじゃ幸せが逃げますよぉ~。」

「いやぁ、別に幸せは、ゆきに百鬼夜行の皆様方がいるおかげで俺は十分に幸せだよ。」

「鯉様ぁ~!!」

「ちょっ!!寒い寒い!!今、仙台は冬なんだから、近づくなっ!!」


 仙台城のお膝元、仙青町。

 そこには、いまだに盛況な商店街が街の人を笑いに包み込む。

 そして、少し外れた路地を通り僅か1分の場所に昭和レトロのような建物から一転。江戸時代にできたであろう長屋敷に、筆で派手に飛沫を散らした大看板が立てられる


『銀慧屋』


 妖の総大将とか、食い逃げ王とか………なんだとか。そう言われているぬらりひょん。その初代が人との交流をするために創設した何でも屋。依頼を受ければ、飼い猫の世話から世界の平和を守るまで何でもかんでも請け負うのが、銀慧屋である。


 そして、今4代目である青年、銀水鯉永ぎんすいりえいは、ぬらりひょんの血を受け継ぐ若い大将の器。そして、鯉永に抱き着く少女は涼風ゆき、雪女であり、彼の側近頭である。


「あっ、そう言えば鯉様。本日予約で一名様お客が入っていますよ!!」

「ホントか!?久しぶりじゃん!!」

「確か、喜連川って言う名字だったはずです!!」

「そうかそうか。それで、ゆき。何時頃に来るんだ??」

「確認しますね!!あっ!10分後です!!」

「了解!!少し用意してくるよ。」


 そう言って、鯉永は裏へ行き、色んなものを用意する。あっという間に10分が過ぎた。


「ごめんくださ~い。」

「あっ、はい!!」

「いやぁ、元気がいいですねぇ。」

「いえいえ~。いらっしゃいませ。喜連川様で間違いないでしょうか??」

「えぇ、私が喜連川になります。」

「確認できました。それでは、こちらにおかけください。もうじき、主が参りますので。」

「ありがとうございます。」


 そう言いながら、喜連川………喜連川義和は礼を一つした。それと同時に、裏に繋がる通路の暖簾をかき分けて鯉永は義和の座っている席へ向かう。


「遠い地からありがとうございます。喜連川様。」

「いえいえ、今回私が言う依頼に比べればお安いモノですよ。」

「………そうなんですか。それでは、本日はどのようなご用件で?」

「実は、あるものを手に入れて、私の元に届けてほしいのです。」

「ほぉ、それはいかなるもので?」


 義和の問いに、鯉永は悪い顔をしながら話を続けさせる。


「実は、私たちの家に伝わるとある、刀身の回収を行ってほしいのです。」

「その銘はちなみに。」

「骨喰と呼ばれています。」

「…………そうですか。もしかして、貴方は足利の分家の者ですか?」

「その銘を聞いただけですぐに当てられたのは初めてでございますよ。」


 即座に当てると、義和は驚いた表情を隠せずにいた。鯉永は、顎に手を当てる。そうして、少しだけ悩むように、唸り声を上げた。


「如何いたしましたか??」

「いやぁ、実は喜連川様の求めている所在自体は分かっているのですよ。」

「何と!!では!」

「しかしですね、厄介な部分があるんですよ。」

「厄介??何か障壁があるもですか。」

「あるんですよ。所在の場所、それは………星仙学園。」

「あの、陰陽師を養成していると言われている!!七代学園の一つじゃないですか!!」


 義和は驚く、それとは別に鯉永は困った表情をする。彼にとっては、死地に飛び込むも同然なのだ。


 昼の秩序を守るもの、陰陽師。歴史の始まりは妖と同等。しかし活躍したという定義では後、平安の都での出来事。百物語により創成された妖の数が膨大になったことによって討伐することに特化した機関。

 陰陽頭と呼ばれる地位に初めて就いた、芦谷道満・安倍晴明の2人によって昼の秩序は保たれていくが………歴史的資料が余りにもへんてこなため、信憑性という点では欠ける物となっている。その実は、ほとんど自著伝になっているからという。まぁ、ヘンテコと言われるにも仕方ない節が強い。


 と、まぁ解説みたいな言葉遊びは終わりにして、鯉永はそのまんま、フリーズしていると、お茶を出したゆきが鯉永の耳元でささやきました。


「………頭。」

「ん?どした。」

「私、高校生活送ってみたいです。」

「………お前、本気で言ってる??」

「いいじゃないですかぁ。スリルもあって、今みたいな暇で廃人になりかける生活よりも何倍も楽しいですって!!」


 ゆきは、彼を説得していく。鯉永は徐々にこの依頼に対して傾きかけていた。義和は、2人のひそひそ噺を横目にお茶を口に含んだ。


「う~ん。でもなぁ、骨喰だろ?あれ、持ってるのって確かさ、足利分家の斯波だよな?」

「確かそうだったはずですよ?しかし、今の学長でもあります。マズいのは………」

「恐山傍流土御門家、だろ?」

「そうです。それが出てくれば………」

「まぁ、全面抗争だろうな。確実に。でも、」

「でも?」

「行くか。学園に………喜連川さん。」


 鯉永は勝手に決断をし、義和に話を入れる。そうして、彼は自らこの世界の秩序を歪ませ、そして歪みへと足を踏み込んでいくのだった。



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