とある殺人鬼の戯言

Yuki@召喚獣

とある殺人鬼の戯言

 サスペンスドラマとか、ミステリードラマってさ、だいたい人が人を殺す場面があるじゃん? 小さい頃ああいうドラマの殺人シーンを見るとひどく気分が高揚しちゃってさ。やっぱり、ちゃんとした実態のある人間が人を殺すシーンっていうのが良かったのか、悪かったのかはわかんないんだけど、どうにも漫画やアニメとかではそういう感じがしなくって。

 人が人を殺すシーンが好きで、刑事もののドラマとかよく見てたんだよね。でも人が人を殺すシーンなら何でもいいってわけじゃなくて、戦争ものみたいに無差別に大量に人が死んでいくやつとか、アクションドラマのモブキャラが死ぬシーンとか、そういうのにはちっとも心が動かなかったんだ。


 結局は、なんていうか幼心なりに「現実感」とか「リアリティ」みたいなものを求めてて、現実自分の生活でありえなさそうなシチュエーションっていうのはどうでもよかったんだなって今ならわかるんだけど、その当時の小さかった私にはそんなことわかんなくってさ。

 とにかく人が死ぬシーンを見るのが好きなんだと思い込んでたし、戦争ものとかアクションものとかで心が動かないのは作品がつまらないせいだ! なんて作品のせいにしてて。


 まあ全然そんなことはなくってただ単に私の感性の問題だったんだけど。それに気づいたのは私が結構大きくなってからの話だし。

 勘違いしないでほしいのは、こういうことを思ってるからといって、別に私に社会的な常識がなかったわけじゃないってことなんだよね。


 私だって人を殺すことが悪いことだっていうのはわかってるし、もちろんそういった教育も受けてきた。今ここに立っているこの私だってこの価値観がなくなったわけじゃない。

 ただ、そういう価値観とか社会常識と、自分の好きなこととか嗜好っていうのかな? そういうのって結構相いれないことってあるよねって話で。


 今回の話とはまた違うけど、世間でいうところのロリコンとかショタコンみたいな奴らだって社会倫理的な観点からいうと「悪い奴ら」に分類されるわけで。でもだからといってそういう人間が社会常識がないかっていうとそうでもないわけじゃん?

 社会常識があって、自分の嗜好が世間的に受け入れられるわけでも許されるわけでもないからフィクションで消化するわけじゃん。


 だからさぁ、私もそうしようとしてたわけ。それこそ実写アニメ問わずにいろいろな作品を見ては自分の中の嗜好を満たそうと躍起になってたわけよ。

 だって人を傷つけるのなんて悪いことだし、殺すなんてもってのほかじゃん? そもそもそうやって嗜好を満たそうとしてた頃の私は、まだ自分が人を殺したがってるなんて全く気付いてなかったわけで。


 だからさ、幼いころの私はちょっと好きなものが人と違うだけの、いたって普通の女の子だったんだ。親や学校の先生からは褒められたし、友達だってそれなりにいて、学校が終わった放課後とか休日とかに遊びに行ったり、地域の子ども会とかに顔を出して汗を流すような所謂「いい子ちゃん」だったんだよ。

 その頃の私はたぶんそれなりに満足してたし、自分の生活に不満なんてなかったはずなんだ。


 その潮目が変わったのは高校一年生の頃だったかな。授業でカッターを使う必要があって、その日はクラスのみんなカッターを持ってたんだ。

 もちろん私だって例外じゃなくカッターを持ってて。百均で買ったような安物のカッターでさ。切れ味が悪いんだ、これが。ものを切るのに女の私だと結構めいっぱい力を入れなきゃ切れないわけ。


 そんなだからさ、ちょっと力の入れ具合をミスったときに、勢い余って隣にいた子の腕をちょこっとだけカッターで切っちゃったんだよね。

 もちろんその時まではいい子ちゃんだった私はすぐにその子には謝ったし、保健室に行くのにも付き添ったよ。先生にも包み隠さずしっかり話したさ。


 そのおかげかその子も私には大して怒らなかったし、学校からも特に何も言われなかった。「気を付けてね」の一言でおしまい。幸いにもその子のケガも全然大きなものじゃなくて、ちょっと大きな絆創膏を貼っておしまいくらいのケガだったのも幸いしたかな。

 でもさ、その時私が感じてたことっていうのは、自分のミスで隣の子をケガさせちゃったっていう罪悪感とかじゃなくて、もっとこう、自分の本能を刺激されたような不思議な感覚でさ。とにかく言葉では言い表せないような独特で、抗えないような魅力的な興奮を覚えたわけ。


 そこで分かったんだよね。「ああ、私って人を傷つけるのが好きなんだ」って。


 それに気づいたときはさぁ、さすがの私も落ち込んだよ? もうめちゃくちゃ落ち込んだ。今まで自分の中で構築してきた社会常識とか倫理観とか価値観とか、全部ぶっ壊れたって感じで。「今までの私って何だったの?」みたいな。

 もちろんそれまでの私が全部なくなるなんてそんなことはないんだけど、たかだか高校一年生の女の子がさ、自分が「人を傷つけるのが好き」なんてことに気づいて、それに興奮してしまう自分を感じて、いきなり受け入れられるっていう方が無理じゃない?


 だからその日からしばらくもう感情がめちゃくちゃになっちゃって。学校はいけなくなるし、それまで時間があれば見ていたドラマやアニメやらも全く見る気がなくなっちゃうし、ご飯ものどを通らないし。心配したクラスの子とか、それこそ私がケガさせちゃったことかが心配して私のことを見に来るんだけど、マジでそれがもう本当に信じられないくらい苦痛なわけ。

 別に心配してくれることが苦痛なわけじゃないんだよ。そういうのは素直に嬉しいって感じる心はあるの。何が苦痛かっていうのは、そうやって心配してわざわざ私の様子を見に来てくれた子に対して、私が感じることが「この子たちを傷つけたい。殺したらどんな感じになるんだろう?」っていうのが、真っ先に来て、それを理性で抑え込んでる、この時間と感覚と気持ちと全部分離しちゃうような、そういうことが苦痛だったんだよね。


 今私が外に出たら、そうやって心配してきてくれた子たちのことを衝動的に殺してしまうかもしれないって。そう思ったらますます家から出られなくなっちゃってさ。

 んで、世間から隔絶した引きこもりになっちゃうと、今度は自分の中に閉じこもっちゃって。「こんな自分生きてる価値なんてないよな」って思考で埋まっちゃって、ある時衝動的に自分の部屋の窓から飛び降りたの。


 運が良かったのか悪かったのか、まあ殺されちゃった人たちからすると運が悪かったってことになるのかな? とにかく今私がここにいるように、何の因果か生き残っちゃってさ。こんな私なのに生き残ったことに親は号泣するし、友達もお見舞いに来まくるしで、なんかもう私本当にどうしようもなくなっちゃってさ。

 生きなきゃ、って思ったわけじゃないんだけど、死んだらダメだって思うようになったっていうか。まあ同じような意味かもしれないけど、とにかくそっから立ち直ったってわけ。


 退院してから学校にもまた通うようになったし、友達とも遊ぶようになったし、勉強だってそれなりに頑張ったよ。私の学歴見てくれた? そんじょそこらの人たちよりもよっぽどいい大学通ってたでしょ。

 そんな感じでさ、何とか無難に日々を生きてたんだよね。


 もちろん私の「人を殺したい」って衝動がなくなったわけじゃないし、今だってそういう気持ちは持ってるよ。別にそういう私自身の気持ちを幼いころに見たドラマのせいにするつもりは一切ないけど、見てて面白かったから当時のドラマを作ってくれた人たちには感謝したいなぁ。

 ちょっと話逸れちゃったかな。ま、私の言いたいことはだいたい言い終わったんだけどさ。


 だからさ、ついこの間まで私は私なりに普通に過ごしてたわけ。人並みに、人と同じようにさ。

 たださぁ……どうしてもどうにもならないことがあって、それでこんな場所に来る羽目になっちゃってさぁ。


 ――は? なんで三人も殺したかって? いまさらそんなこと聞くの? 私、散々語ったよね? 人を殺したかったって。人が人を殺すのを見るのが好きだって。なんかそれ以上説明が必要なの?

 まぁ確かに? 日常生活に戻った私が? 三人も殺したってことに? 興味を持っちゃうのもわからなくもないけどさ?


 私が三人を殺した理由を調べるっていうのも、刑事さんたちの仕事じゃないの? 私がここで喋っちゃったら面白くないでしょ。

 それとも刑事さんも行ってみたら? 迷宮に。私を送るついでにさ。入ってみたらいいじゃん。楽しいかもしれないよ。


 んー! じゃ、話はここで終わり! バイバイ! 生きてたらまた会おうね!

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