第43話 妖精さんと私は殿下の名前を知らない
「殿下、どうしてここに?」
まさか向こうから声をかけられてドキリと心臓がはねます。
恋のドキドキではありません、お化け屋敷に入っておばけに驚かされた時のドキドキです。
現在使用人として潜り込んでいるため、メイド服を着て、髪も三つ編みにして、念の為メガネをしている私の姿を見てすぐわかるはずないのに…
「妖精に髪を引っ張られた」
「え?あ!」
私は慌ててポケットの中を見ました。
すると、ポケットにいるはずの妖精が一人いなくなっているのを確認しました。
きっと、今殿下につままれている妖精が、いつの間にやら抜け出して、私に許可を得る前に殿下を呼びに行ってしまったようです。
全く……パーティーの場をなんだと……
お忍びでお店にお菓子を買いに来てる時とは状況が違うのですよ。
まぁ……そのことは妖精だけではなく殿下にもいえますが。
「一つもらえるか」
そういうと殿下は、私が持っているチョコもちマウンテンの一番上にある一粒をつまみ、口の中に運びました。
そんなにチョコ餅ばっか食べてたら、殿下は将来鏡餅みたいな体型になるに間違いありません。
まぁ、口の中に入ってしまったものを返せともいえないので話題を変えましょう。
「パーティーの最中ですよ?使用人に声をかけていいんですか?」
「気にするな、俺は使用人にスイーツをもらいにきただけだ。」
「はぁ……そうですか。」
いつも菓子菓子言ってるのに、こう言う場ではけスイーツですか。
一応立場と場所をわきまえたのですかね。
「で、置き場がわからないのか?」
あぁ、そうでした。
私今迷子なんでしたね。
こんな国のトップの方にお手を煩わせるなんて、申し訳ない。
「人混みですので、現在地の把握と目的地の確認ができず。」
しかし、意図せずとはいえ妖精たちがせっかくこの場のことをわかっている人を連れてきてくれたのです。
立ってるものは殿下でも使ってやりましょう精神で、困り事を伝えました。
「チョコ餅の設置はあっちだ」
すると殿下は、すぐに目的地の場所を指差して、すんなり場所を教えてくれました。
「あ……ありがとうございま……あれはなんです?」
指を刺された場所は、かなりのスペースが開けられている机でした。
今持ってる大きさのお皿が3つくらいおけそうですね。
そしてそれだけならいいんですけど、他のスペースは全部白いテーブルクロスなのに、あそこだけ金色のテーブルクロスがかけられています。
そして、例のポスターが貼られています。
『殿下の好物チョコ餅。』
『友好の架け橋』
などなど。
このスペースに置いて浮かないスイーツは、豪華にデコレーションされ、何段にも重ねられたウエディングケーキくらいじゃないですかね。
こんな場所があったんですね、人影に隠れて全く見えませんでしたが。
教えてくれたのが殿下でなければ、この場所に気がついても見なかったことにして退散しましたのに……何を考えているのですかね殿下は。
「どうだ?目立つようにスペースを作ったんだが。」
「また、大々的にスペースとってますね。」
とりあえず当たり障りない返事をします。
「そりゃ、友好の証を証明するためのスイーツだからな」
「そんなにお皿乗っけるほど、量作ってないですよ?」
「なんでだ!」
「餅はお腹に溜まるんです。そう一人何個も食べるとは思えませんし……」
もちろん追加は作ってますが、他にも世界各国の料理がずらりと並ぶ会場です。
デザートって、腹8分目のところで食べに来る人が多いでしょうから、そんなに準備しても食べないのでは……という目論見なので、人数分プラスアルファしか作っていないのです。
「俺は食うぞ」
そう言ってまたチョコ餅を一つつまみ口に放り込みます。
いい加減飽きないんですかね。
「とりあえずさっきまでの口調と表情に戻してください、公の場ですよ?威厳を保ってください」
「フィナンドと同じことを言う。」
「フィナンド?」
誰でしょう、聞いたこともない名前が飛び出しました。
「いつも店に連れてく連れだ」
あぁ、お付きの人のことですか。
そう言う名前だったんですね、初めて知りましいた。
「そういえば、殿下のお名前はなんと言うのです?」
お菓子の量について説明するのも面倒ですし、なんか離れてくださらなそうなので、話題を逸らすことにしました。
「……自分の国の皇太子の名前も知らないのか」
「普段は『殿下』としか呼ぶ機会がないので」
「にしても、元貴族令嬢なら名前くらい教わるだろう」
「そんな昔のこと、忘れましたよ。日々の生活が忙しくて。」
「寂しいことを言うな。」
とはいえ、殿下の名前を呼ぶ機会もないのですよね。
殿下のことは立場上殿下としか呼べませんし。
お店の立ち位置としてもお客様ですし。
「俺も名前呼んでくれていいんだぞ?」
「お客様かつ国のトップの方にそんなことできませんよ。」
「『殿下』としか呼んでもらえない俺が可哀想に思わないのか?」
「殿下だって、私の名前を一度も読んだことないじゃないですか。」
私がそういうと殿下は黙ってしまいました。
別に呼んで欲しいから言ったわけではないのですが……気に触ってしまいましたでしょうか。
「とにかく、これ以上使用人と話していると、他の方々に示しがつきませんよ」
私はそういうと、殿下から一歩引いて、お皿をひっくり返さないよう気をつけながら軽くお辞儀をした私は。
「それでは場所を教えていただきまして、ありがとうございました。失礼します」
そう言ってその場から離れ、あまり行きたくない煌びやかなチョコ餅設置場所まで向かいました。
そして、そのテーブルの場所に辿り着くと、妖精が私に声をかけました。
「オーナー」
「なんです?」
「ええの?」
「流石に可哀想では?」
可哀想……というのは、何に対してのことでしょうか。
もっとこの仰々しいチョコ餅スペースのことを褒めるべきだったのでしょうか。
それとも名前のことでしょうか。
どちらにしても雑談のつもりだったのですけれどね。
「しょうがないじゃないですか。身分が違いすぎます。」
それに、使用人があれ以上話してるのは、この場としてはあまりよろしくない。
ですから、適当に話を切りあげたまで。
どう思われようとも、ああするしかありません。
「さ、これ置いたら行きましょう。」
私は指定された場所に自分の持ってきたお皿を置くと、手をぱんぱんと叩くと、机から離れようとしました。
そんな時。
「わっ」
突如足に何か引っ掛かり、バランスを崩した私は盛大にバターンという音を立てて、倒れてしまいました。
「オーナー!」
「オーナー大丈夫!?」
いつの間にか帽子の中に移動していた3人の妖精たちは、私にそう声をかけました。
「えぇ……大丈夫です。」
テーブルを引っ掛けて倒れなかったのは不幸中の幸いでした。
おかげで料理をひっくり返して大惨事は回避できました。
場合によっては国際問題になると頃だったので、安堵しました。
しかし、大きな音を立ててしまったせいで、会場の談笑の声は止み、視線を一気に集めてしまいました。
醜態を晒してしまった私は、慌てて立ちあがろうとしたのですが……
「誰かと思えば…あなたこんなところで何をしているの?」
「え…」
そう言って私に声をかけたのは……アプリコット伯爵令嬢でした。
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